顧客の購買に至るまでの“心の旅”を観察し、受注を目指す新規営業【新規開拓戦術編】

「うちの営業、本当に“相手の立場”で考えられているんだろうか…?」
中小企業の経営者や営業マネジャーであるあなたは、自社の営業担当者の報告を聞きながら、ふと、そんな一抹の不安を覚えたことはありませんか?
「お客様に商品の魅力をしっかり伝えてきました!」と、清々しい顔で語る若手。しかし、その後の経過報告がいつまで経っても上がってこない。一体、あの商談はどうなったのか。
この記事は、そんな「頑張っているはずなのに、なぜか売上が上がらない」という、もどかしい悩みを抱えるあなたのために書きました。
この記事を読めば、なぜ多くの営業が空回りしてしまうのか、その根本的な原因がわかります。そして、顧客の「心の状態」を正確に見抜き、相手が思わず「それ、欲しいです」と口にしてしまうような、科学的で再現性の高い営業アプローチを手に入れることができるでしょう。
あなたの話が響かないのは、浅はかな“商品説明”が原因
少し、私の個人的な話をさせてください。
先日、とあるきっかけで「浄水器」というものに興味を持ちました。水道水に含まれる物質がどうのこうの、という記事をネットで見かけたからです。「へぇ、そんな世界があるのか」と、少し関心が湧いたのです。
しかし、私の気持ちは、あくまで「興味・関心」レベル。喉から手が出るほど「欲しい」わけではありません。今の生活に、明確な不満があるわけでもないからです。
そんな私のもとに、もし営業担当者がやってきて、開口一番こう言ったらどうでしょう。
「この浄水器はですね、業界最新のフィルターを搭載しておりまして、除去できる物質の数が他社製品と比べて30%も多いんです!しかも、今ならキャンペーン中で、月々たったの3,980円から始められます!コスパ最強ですよ!」
…おそらく私は、丁寧にお断りするでしょう。なぜなら、私が知りたいのは「価格」や「他社との比較」ではないからです。そもそも、浄水器が自分の生活に「必要だ」とすら思っていないのですから。
多くの営業現場で、これと全く同じ悲劇が繰り返されています。
営業担当者は、良かれと思って、自社製品の優れた機能や、他社よりも優位な点を、熱心にアピールします。まるで、それが営業の仕事だと信じきっているかのように。
しかし、お客様の心がまだ「無関心」や「単なる興味」の段階にあるとすれば、その熱弁は、ただの騒々しいノイズでしかありません。お客様の頭の中は「いや、そもそも、なんでそれが必要なの?」という巨大な「?」で埋め尽くされているのです。
これでは、いくら時間と労力をかけても、受注というゴールにたどり着くはずがありません。むしろ、相手の状態を無視して自分本位のトークを展開することで、芽生えかけていたかもしれない小さな興味の芽すら、摘み取ってしまうことになるのです。
営業という仕事は、社会人としての原理原則、すなわち「相手の立場に立ってものを考える」という基本が、何よりも問われるのです。
お客様の「心の旅」を導く、たった4つのステップ
では、どうすればいいのか? 答えはシンプルです。お客様が今、購買に至るまでの「心の旅」の、どの地点にいるのかを正確に把握し、その段階に合わせた情報提供を行うことです。
心理学やマーケティングの世界では、顧客の購買決定プロセスを説明するために『AIDMA(アイドマ)』や『TTM(トランスセオレティカルモデル)』といったフレームワークが使われますが、小難しい横文字を覚える必要はありません。
要点は、たったの4つです。あなたの会社の営業が、この4つのステップを意識するだけで、売上は劇的に変わるはずです。
【ステップ1】無関心期:「そもそも、問題にすら気づいていない」お客様
これは、まだ自分の抱える課題やニーズに気づいていない状態です。この段階のお客様に、いきなり商品の説明をしても、全く響きません。
商品の話は一切せず、「課題の存在」に気づかせることに全力を注ぎましょう。なぜなら、人間は、自分に関係のない情報には見向きもしない生き物だからです。まずは「これは、自分のことかもしれない」と思わせる必要があります。
例えば、「もし、このまま現状を放置し続けたら、1年後、どんな深刻な事態が待っているか」を、具体的なデータや事例を用いて、冷静に、しかし少しだけ危機感を煽るように語りかける。
先ほどの浄水器の例で言えば、「この浄水器は素晴らしいですよ」と語るのではなく、
「実は、この地域の水道管の老朽化データによると、〇〇という物質が基準値ギリギリで検出されていまして…。この物質を長年摂取し続けると、将来的にこんな健康リスクがあるという研究結果があるんです」と、穏やかに情報提供するのです。
お客様の頭の中に「え、マジで? うち、大丈夫か?」という小さな不安の種を植え付けること。それが、このステージにおける営業の唯一の仕事です。
【ステップ2】関心期:「ちょっと気になる…」でも、まだ他人事なお客様
課題の存在には気づいたものの、まだ「自分ごと」として捉えきれていない状態です。多くの情報の中から、自分にとって本当に重要かどうかを見極めようとしています。
具体的なメリットや、導入することで得られる「理想の未来」を相手に想像させましょう。人は、不安を煽られるだけでは行動しません。「この問題を解決すれば、こんなに素晴らしい未来が手に入るのか!」という希望が見えて、初めて真剣に検討を始めます。
先ほどの浄水器の例なら、「この浄水器を使えば、毎日飲むお茶やコーヒーの味が劇的に変わりますよ。それに、わざわざ重いペットボトルの水を買ってくる手間もなくなります」と、具体的な生活の変化をイメージさせます。
この段階で重要なのは、「他社製品との比較」や「価格の安さ」をアピールすることではありません。お客様が「欲しい!」と感じるための「感情的な動機(メリット)」を、どれだけ具体的に、ありありと想像させられるかにかかっています。
【ステップ3】準備期:「本気で欲しい。でも、面倒くさい…」と悩むお客様
商品の必要性を理解し、「欲しい」という欲求も高まっています。しかし、いざ導入するとなると、様々なハードルが目の前に現れます。法人営業であれば、ここからが本番です。
購入や導入に伴う、あらゆる「面倒くささ」を取り除き、お客様の背中を押してあげましょう。
「面倒くささ」とは、例えば、担当者個人が「これ、いいな!」と思っても、会社として契約するためには、上司や社長を説得し、予算を取り、社内のコンセンサスを得るという、極めて面倒なプロセスのことです。
こういった場合、「部長が社長を説得するための稟議書(りんぎしょ)の叩き台、私の方で作りましょうか?」「導入にあたって、他部署から聞かれそうな質問を想定したQ&Aリストもご用意します」と、お客様の“社内営業”をサポートする味方になる。
「価格は500万円です。あとは社内で頑張って調整してください」と突き放す営業と、「この500万円の投資を認めてもらうために、一緒に戦いましょう」と寄り添う営業。経営者であるあなたが、どちらの営業から買いたいと思うかは、言うまでもないでしょう。
この「記憶」のステップ、つまりお客様の頭の中からあなたの存在を忘れさせず、面倒なプロセスを一緒に乗り越える姿勢こそが、特に新規開拓営業において極めて重要なのです。
【ステップ4】行動期:「よし、決めた!」でも、まだ安心できないお客様
ついに契約の意思決定がなされた状態。しかし、ここで気を抜いてはいけません。実際に活用され、お客様が「導入して本当に良かった」と感じるまでが営業の仕事です。
スムーズな導入と、期待以上の成果を出すためのフォローアップを徹底しましょう。本当の信頼関係は、契約してから始まります。ここで手厚いサポートを提供することで、お客様はあなたの会社のファンになり、次の契約や、別のお客様の紹介に繋がっていくのです。
導入後、定期的に「その後、お困りの点はありませんか?」と連絡を入れる。ただの御用聞きではなく、より成果を出すための新しい活用方法などを能動的に提案する。
この4つのステップは、まるで人が新しい趣味を始めるプロセスにも似ています。
友人に「絵を描こうよ」と誘われても、最初は「無関心」。でも、何度も誘われたり、センスあるよと褒められたりするうちに、少し「関心」が湧いてくる。実際に体験教室に行ってみて、「もっと本格的にやりたい」と「準備」を始め、月謝を払って教室に通い「行動」する。そして、仲間と励まし合いながら「継続」していくのです。
あなたの会社の営業は、このお客様の「心の旅」に、きちんと寄り添えているでしょうか。
「既存のエース」が「新規開拓」で通用しない、残酷な真実
ここで、経営者であるあなたに、一つ厳しい質問をさせてください。
あなたの会社では、「新規開拓」を誰に任せていますか?
もしかしたら、「既存のお客様との関係構築が上手い、うちのエースに任せよう」と考えてはいないでしょうか。もしそうなら、それは大きな間違いかもしれません。
既存のお客様への深耕開拓と、全くのゼロから関係を築く新規開拓とでは、求められるスキルが全く異なります。例えるなら、同じ球技でも、野球とサッカーくらい違うのです。
既存のお客様は、すでにあなたの会社や商品に一定の信頼を寄せてくれています。つまり、多くの場合【ステップ2】や【ステップ3】からスタートできる、いわば「イージーモード」なのです。
しかし、新規開拓は違います。お客様はあなたの会社のことなど、全く知りません。多くが【ステップ1】の「無関心」な状態からのスタートです。
ここで求められるのは、商品の知識よりも、相手の状態を冷静に分析し、臨機応変にアプローチを変えることができる「観察眼」と「柔軟性」なのです。
既存営業で実績があるからといって、そのやり方を新規開拓に持ち込んでも、空回りするだけです。むしろ、キャリア採用で入社してきた、新規開拓の経験が豊富なメンバーの方が、よほど早く成果を出すかもしれません。
重要なのは、自社の商材にどれだけ詳しいかではなく、お客様の心理をどれだけ深く理解できるかなのですから。
まずは「最初の3分」の会話をチェックする勇気を
さて、ここまで読んで、あなたの会社の営業組織を少しでも変えたい、と感じていただけたでしょうか。
いきなり全てを変えるのは難しいかもしれません。でしたら、まずは、たった一つの、しかし最も重要なことから始めてみませんか。
次に営業担当者が商談に行く際、お客様との「最初の3分間」で、何を話しているかを確認してみてください。
一方的に、自社の商品やサービスの話から始めていないでしょうか?
それとも、「今、事業を行う上で、一番頭を悩ませていらっしゃることは何ですか?」と、お客様の「課題」や「状態」を理解することから始めているでしょうか?
この、たった3分間の会話の中に、あなたの会社の営業が抱える、すべての問題点が凝縮されているはずです。
本質的な営業力で、売上の壁を打ち破る
どんなに素晴らしい商品やサービスを持っていても、それがお客様に正しく伝わらなければ、存在しないのと同じです。そして、正しく伝えるとは、一方的にアピールすることではありません。お客様の心の状態に寄り添い、一歩一歩、共に「心の旅」を歩んでいくことです。
もし、
- 個人の頑張りに頼る属人的な営業から脱却し、組織として勝てる仕組みを作りたい…
- 顧客の心理を理解し、無理なく受注できる本質的な営業戦略を学びたい…
- 営業担当者のストレスを減らし、誰もが自信を持ってお客様と向き合えるチームを育てたい…
と、本気でお考えの経営者・営業マネジャーの方がいらっしゃいましたら、ぜひ一度ご相談ください。
私たちは、小手先のセールストーク研修は行いません。人間心理の深い理解に基づき、どんなタイプのお客様とも信頼関係を築ける、本質的なコミュニケーション能力の向上をサポートします。それが最終的に、貴社の安定的な売上と、持続的な成長に繋がることをお約束します。
まずは、60分間の無料オンライン相談で、貴社が今抱えている課題や、目指したい未来について、私たちにぶつけてみませんか。無理な勧誘は一切いたしませんので、ご安心ください。
また、日々の営業活動のヒントや、コンサルティングの現場からのリアルな気づきを、Instagramでも発信しています。こちらも、ぜひフォローしていただけると嬉しいです。
あなたの、そして貴社の営業が、お客様から心から信頼され、選ばれ続ける存在になるためのお手伝いができることを、心から楽しみにしています。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。