お客様に嫌われない値上げ交渉術 明日から使える4つの準備と手順

「原材料費が高騰しているから、値上げをお願いしなきゃいけない…」
「でも、今の価格だから買ってくれているのに、高くしたら他社に乗り換えられるんじゃないか…」
「お客様の顔色が怖くて、どうしても『値段を上げさせてください』の一言が言い出せない…」
昨今の物価上昇、エネルギー価格の高騰、人件費の増加。経営者や営業マネジャーの皆様にとって、避けては通れないのが「価格改定」という重たい課題ではないでしょうか。
頭では「値上げしないと会社の利益が残らない」と分かっている。けれど、現場に行くとお客様の厳しい視線が刺さり、つい弱気になってしまう。「今回はなんとか据え置きで頑張ります…」と、またしても自社の身を削る約束をして帰ってきてしまう。
この記事は、そんな板挟みのプレッシャーに悩む営業担当者、そして会社の利益を守らなければならない経営者の方々のために書きました。
この記事を読めば、お客様との信頼関係を壊すことなく、納得感のある値上げ交渉を進めるための「具体的な手順」と「マインドセット」が手に入ります。
恐怖心に負けて安売りするだけの営業から卒業し、適正な価格でしっかりと「契約」を結び、会社の未来を作るための「売上」を確保する。そのための技術を、今日ここで持ち帰ってください。
「また値上げ?」お客様の冷たい反応と、営業の恐怖
いざ、勇気を振り絞ってお客様のもとへ。「実は、昨今の原材料費の高騰がありまして…大変心苦しいのですが、来月から単価の見直しをお願いしたく…」 恐る恐る切り出したあなたに対して、お客様は眉をひそめ、冷たく言い放ちます。
「え? また? こないだもそんな話、ニュースでやってたけどさ。ウチだって厳しいんだよ。そんな簡単に『はいそうですか』なんて言えるわけないじゃない」
「そんなに高くなるなら、もう御社じゃなくて、ネットで安いところ探すからいいよ」
の言葉を聞いた瞬間、営業担当者の背筋は凍ります。
(まずい、このままだと長年の取引がなくなる…!)
(せっかく積み上げてきた売上がゼロになってしまう!)
その恐怖から、あなたは慌ててこう言ってしまうのです。
「あ、いえ! あの、あくまでお願いベースですので! …持ち帰って上司と相談します! なんとかします!」 結果、値上げは失敗。
会社に戻れば社長から「なんで値上げしてこなかったんだ!」と詰められ、現場ではお客様から「安くして当たり前」と思われてしまう。これは、多くの中小企業の営業現場で起きている、悲劇的な「負のループ」です。
なぜ、このような事態に陥ってしまうのでしょうか? それは、交渉のテクニック以前に、「価格」というものの性質と、交渉に向けた「準備」が圧倒的に不足しているからなのです。

まず知っておくべき「2種類の価格」と「相場感」
具体的なテクニックに入る前に、一つだけ押さえておきたい前提があります。それは、あなたが扱っている商品には「2種類の価格」の性質があるということです。
一つ目は「既製品」。 これは、すでに大量生産されていて、市場に在庫があり、誰でも買えるものです。
わかりやすい例で言うと、500mlのミネラルウォーターを想像してください。
コンビニや自販機で売っている水は、大体130円から160円くらいですよね。 これがいきなり、「来月から250円にします」「400円になります」と言われたらどうでしょう? 「は? なんで?」となりますよね。
「水なんてどこで買っても一緒なんだから、隣の店で買うよ」となってしまいます。 このように、相場がガチガチに決まっている「既製品」の値上げ交渉は、非常に難易度が高いのです。
二つ目は「特注品」。 お客様の要望を聞いてから設計したり、カスタマイズしたりするものです。
こちらは、設計段階や仕様決めの段階で、お客様と綿密にやり取りをします。「リードタイム」という時間があるため、そこで信頼関係を構築することができます。
「〇〇さんのために、こういう仕様にしました」という付加価値が乗るため、相場との単純比較がされにくく、交渉の余地が生まれます。
あなたの会社の商品はどちらに近いでしょうか? もし「既製品」に近いのであれば、ただ「上げてください」と言うだけでは絶対に通りません。これからお伝えする4つのポイントを、より緻密に実行する必要があります。
値上げ交渉を成功に導く4つの鉄則
それでは、冷徹なビジネスの現場で、お客様に納得してもらい、適正な価格で「受注」を勝ち取るための4つのポイントを解説します。
❶ 日頃の関係維持(誰が交渉するか?)
- 結論:値上げの話をする時だけ現れるのではなく、日頃から接触している「担当者」が交渉の土台を作る。
- 理由:人は「会社」ではなく「人」と取引しています。普段全く顔を出さない人が、値上げの時だけ出てきても「金の話か」と警戒されるだけです。
- 一歩目:今日、キーマンに「用事がなくても」一本連絡を入れる。
少し想像してみてください。 いつもはAさんが担当で、足繁く通って雑談もし、困りごとを聞いてくれているとします。しかし、値上げの話になった途端、見たこともないBさんが出てきて、「交渉のプロです」みたいな顔をして話し始めたらどう思いますか?
「なんか、テクニックで丸め込もうとしてるな」
「ウチのこと何も知らないくせに」
と、感情的な反発を招きます。人間とはそういうものです。
もし、あなたが若手で、決裁権を持つキーマン(社長や部長)との関係が薄いなら、日頃から上司を連れて挨拶に行き、「上司の顔」を売っておくこと。これをサボって、土壇場での交渉は成立しません。関係を「作る」だけでなく、「維持する」泥臭さが不可欠なのです。
❷ 徹底的な事前準備(理論武装)
- 結論:市場動向、競合他社の動きを調べ上げ、「逃げ道」を塞いでから交渉に臨む。
- 理由:お客様は「他ならもっと安いのでは?」と疑っています。「他社も同様に値上げしています」「安い他社は機能を削っています」と即答できないと負けます。
- 一歩目:競合他社の最新の価格改定ニュースや、原材料高騰の公的なデータ(新聞記事など)を3つ印刷する。
「ZOPA(ゾパ:「Zone of Possible Agreement」の略で、交渉において双方が合意できる可能性のある条件の範囲(合意可能領域))」や、「BATNA(バトナ:「Best Alternative To a Negotiated Agreement」の略で、交渉が決裂した場合に自分が取れる「最善の代替案/次善策」)」という交渉用語をご存知でしょうか?
要は、「どこまでなら譲歩できるか」「交渉決裂した時の代案はあるか」という準備のことです。 商談の現場でのトーク力なんて、氷山の一角です。勝負の9割は、商談ルームに入る前の準備で決まっています。
「他社さんはもっと安いって言ってたよ?」と言われた時、
「あ、それはおそらく〇〇という部材を使っていない旧型モデルの話ですね。現在の安全基準を満たしているのは、弊社のこのモデルとA社さんの高価格帯モデルだけです」
と、冷静に、事実に基づいて切り返せるか。 これができなければ、ただの「お願い営業」になり、足元を見られて終わりです。

❸ 根拠の明確化(相手の社内事情を救う)
- 結論:値上げの理由を「資料」として渡し、担当者が上司に説明できるようにする。
- 理由:目の前の担当者が納得しても、その上司(決裁者)が納得しなければ契約はできません。担当者を「板挟み」にさせない配慮が必要です。
- 一歩目:「価格改定の理由書」を作成し、コスト増の内訳(材料費〇%増など)を可視化する。
「世の中がこういうご時世なんで…なんとかなりませんか?」 こんなふんわりした理由で、企業の部長や社長がハンコを押せるわけがありません。 担当者だって、本当はあなたの商品を使い続けたいかもしれない。
でも、社内で稟議を通すための「武器」がないのです。
「実は、原油価格の高騰で輸送費がこれだけ上がり、さらに半導体不足で部品単価がこれだけ上がりました。自社努力でここまで吸収しましたが、どうしてもあと〇%お願いしないと、供給自体が止まってしまいます」
このように、数字と論理で構成された資料を用意してください。そうすれば、担当者はその資料を持って、「こういう理由なので、値上げもやむを得ません」と上司を説得できるのです。
相手を説得するのではなく、相手が社内を説得するための「手助け」をする。これがプロの営業です。
❹ 代案(プランB)の用意
- 結論:「値上げか、契約解除か」の二択にせず、条件を変更した「松・竹・梅」を用意する。
- 理由:予算の壁でどうしても値上げが飲めない場合もあります。その時、ただ引き下がるのではなく、条件を変えて利益を守る必要があります。
- 一歩目:「価格は据え置くが、納期を伸ばす」「機能の一部を制限する」といった別プランを一つ作る。
「そんなに高くなるなら無理だ」と言われた時、「じゃあ、今回は据え置きます…」と言ったら、あなたの負けです。
「分かりました。では、価格を据え置く代わりに、これまで行っていた配送サービスを無くし、店頭引き渡しとさせていただくプランBではいかがでしょうか?」「あるいは、契約期間を1年から2年に延長していただけるなら、割引率を調整できます」
このように、何かを譲歩するなら、必ず何か(手間、期間、仕様)を交換条件にする。これが対等なビジネスパートナーとしての交渉です。

最強の武器は「断られても大丈夫」という状態
ここまで、交渉のテクニックをお伝えしてきましたが、実はこれら全てを支える、もっと根本的な「最強のノウハウ」があります。 それは、見込み客や案件の「ストック」を十分に持っておくことです。
なぜ、営業担当者は値上げ交渉で弱気になってしまうのか? 答えはシンプルです。
「このお客様に断られたら、今月の売上目標が未達になるから」です。
「この契約がなくなったら、会社が潰れるかもしれないから」です。
崖っぷちに立たされている人は、交渉なんてできません。相手の言いなりになるしかないのです。
しかし、もしあなたの手元に、目標の2倍、3倍の「見込み案件」があったらどうでしょうか? 「もし、この値上げ交渉で決裂しても、他に待ってくれているお客様がたくさんいる」 そう思えたら、精神的な余裕が全く違ってきます。
「残念ですが、この価格でなければ品質を維持できません。他社様をご検討ください」と、毅然とした態度で言えるようになります。
そして不思議なことに、そうやって自信を持って堂々としている営業マンの方が、お客様からは「信頼できる」「やはり御社の商品は価値があるんだ」と思われ、結果的に値上げが通ったりするのです。
交渉テクニックも大事ですが、それ以上に「いつ断られても大丈夫」な状態を作るために、日頃から種をまき、「見込み案件」を積み上げておくこと。これが、経営者やマネジャーが取り組むべき、本質的な「営業戦略」です。

今日からできる最初の一手
値上げ交渉は、決して「悪」ではありません。 適正な利益を確保することは、会社を存続させ、従業員を守り、そして巡り巡って、より良い商品をお客様に提供し続けるための「責任」です。 恐怖心を乗り越えるためには、準備しかありません。
まずは今日、「これから交渉に向かうお客様の、キーマンの顔」を思い浮かべてみてください。 そして、その人に対して、 「なぜ値上げが必要なのか?」 「他社と比べて何が違うのか?」 を説明するための資料作り(上記ポイント❸)から始めてみましょう。
安定した高収益体質を作りたい経営者様へ
「理屈はわかったけれど、ウチの営業は気が弱くて…」 「そもそも、交渉以前に『見込み案件』なんて全然足りていない…」 「値上げどころか、毎月の目標達成すらままならない…」
もし、そんな根深い悩みを抱えている経営者の方がいらっしゃいましたら、ぜひ一度ご相談ください。 トレテクでは単なる精神論ではなく、誰でも再現可能な「仕組み」で、値上げも恐れない強い営業組織を作るお手伝いをします。
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最後までお読みいただき、ありがとうございました。 あなたの営業活動が、お客様にとって最高の体験となることを心から応援しています。
