「完璧なマニュアル」を捨てて、最速で新人営業を戦力化する方法

「新人が、なかなか育ってくれない…」
「手厚い研修資料も用意した。OJTもつけている。なのに、なぜ一向に成果が出ないんだ…?」
「早く一人前になって、チームの売上に貢献してほしいのに…」
中小企業の経営者や営業マネジャーであれば、一度ならず、百度は頭を抱えたことのある悩みではないでしょうか。新しい新人が加わる期待感とは裏腹に、彼らの成長スピードが思うように上がらず、焦りと苛立ちが募っていく。
この記事は、そんな出口の見えない「新人育成の沼」にはまってしまった、すべてのリーダーのために書きました。
この記事を読めば、なぜあなたの会社の育成が空回りしてしまうのか、その根本的な原因がわかります。そして、「完璧な育成プログラム」という幻想から脱却し、最も効率的に新人の営業を戦力化するための、一見遠回りに見えて、実は最短距離となるアプローチを手に入れることができます。
上司の想いとは逆に、新人が「同じ壁にぶつかり続ける」ループ
あなたの会社では、こんな光景が繰り広げられていませんか?
会議室で、マネジャーが新人の営業担当者を前に、少し語気を強めています。
マネジャー:「この前の商談、また決めきれなかったんだって? 商品説明の資料、ちゃんと読み込んだのか? 何度も練習するように言っただろ!」
新人:「はい、読んだのですが…。お客様から想定外の質問をされると、頭が真っ白になってしまって…」
マネジャー:「そんなのは経験不足だ! もっと気合を入れて、現場で学んでこい! 俺たちの若い頃はな…」
マネジャーの焦りは痛いほどわかります。会社の売上目標は待ってくれない。一日でも早く、新人にも戦力として貢献してもらわなければならない。その思いが強ければ強いほど、「なんで、こんな簡単なこともできないんだ!」という感情が湧き上がってきます。
この「焦り」こそが、新人育成における最大の敵です。
データを見ても、目標が達成できていない営業組織ほど、新人の戦力化を焦る傾向があると言います。焦りは、マネジメント側の「新人を自分の思い通りにコントロールしたい」という欲求の裏返しです。
しかし、その感情的なプレッシャーは、新人を成長させるどころか、むしろ萎縮させ、思考停止に追い込むだけです。
一方で、良かれと思って、分厚く、完璧な「営業マニュアル」や「育成プログラム」を整備している会社も少なくありません。しかし、現実はどうでしょう。そのマニュアルは、新人研修の初日に配られたきり、誰にも読まれずに本棚の肥やしになっていませんか?
結局、「気合で覚えろ」と現場に放り出す旧来のやり方も、誰も使わない完璧なマニュアルを作る現代的なやり方も、新人が「同じ壁に何度もつまずき続ける」という根本的な問題を解決できていないのです。
これでは、貴重な人材が育つ前に疲弊し、辞めていってしまいます。そんな悲劇を繰り返していては、会社の未来を支える安定した売上など、夢のまた夢です。
“完璧な育成”という理想を捨て、“不完全な育成”で最大効果を狙う
では、どうすれば新人の成長スピードを上げ、自走できる営業へと育て上げることができるのでしょうか。
その答えは、「完璧を目指さない」ことにあります。むしろ、「完璧な育成体系」という理想像を、一旦ゴミ箱に捨てることから始めなければなりません。
一見、乱暴に聞こえるかもしれません。しかし、これこそが、新人営業を最速で戦力化するための、最も効果的なアプローチなのです。
なぜ「完璧なマニュアル」は機能しないのか?
考えてみてください。あなたが新人だった頃、会社から渡された分厚いマニュアルを、隅から隅まで熟読し、完璧に暗記した経験がありますか? おそらく、ほとんどの人が「NO」と答えるでしょう。
完璧を目指して作られたマニュアルは、網羅的であろうとするあまり、情報過多に陥ります。新人にとっては、どこが重要で、どこが今の自分に必要な情報なのか、判断することすらできません。結果として、「読むのが面倒くさい」と感じ、開かれなくなってしまうのです。
これは、作る側の自己満足に過ぎません。「これだけ立派なものを用意したのだから、あとは本人の努力次第だ」という、責任逃れの道具になってしまう危険性すらあります。
ワークマンに学ぶ「階段」の作り方
では、どうすればいいのか。ここで一つ、非常に参考になる事例があります。
驚異的な業績で知られる「ワークマン」の土屋哲雄専務が書かれた『ワークマン式「しない経営」』という本の中に、こんなエピソードがあります。
当時、ワークマンの社員は、ほとんどエクセルを使ったことがなかったそうです。しかし、会社の方針として「データを活用した経営」へシフトすることが決まりました。あなたなら、どうしますか?「今日から全員エクセルをマスターしろ!」と号令をかけますか?
土屋専務がやったことは、違いました。彼は、難易度に応じた「演習問題」の束を作ったのです。
- レベル1:全く触ったことがない人は、まずこの課題をクリアしよう。
- レベル2:レベル1ができたら、次はこの課題に挑戦しよう。
- レベル3:レベル2ができたら…
というように、ゴールまでの間に、具体的な「階段」をいくつも設置したのです。これにより、社員は「今、自分は何をすべきか」「次に何を目指せばいいか」が明確になり、着実にスキルを習得していくことができました。
営業の育成も、これと全く同じです。「一人前の営業になれ」という漠然としたゴールを示すのではなく、そこに至るまでの「小さな階段」を作ってあげることが、リーダーの仕事なのです。
「虫食い」でいい 最もインパクトの大きい一撃から
しかし、ここで多くの組織がまた罠にはまります。「よし、うちも営業のスキルマップと、レベル別の研修を作ろう!」と、再び“完璧な階段”をゼロから設計しようとしてしまうのです。それでは、完成する頃には市場が変わり、役に立たないものになっているかもしれません。
私がお勧めするのは、もっと泥臭く、もっと実利を取るアプローチです。
それは、「虫食い状態」で始めること。
いきなり綺麗な階段を全て作ろうとするのではなく、まず、あなたの会社の新人営業が成果を出す上で、最もインパクトが大きい、たった一つの課題は何でしょうか?
- 商品知識がなくて、お客様の質問に答えられないことですか?
- アポイントの電話で、受付を突破できないことですか?
- 商談でうまくヒアリングができず、一方的に話してしまうことですか?
まず、その「一番効くポイント」を解決するためだけの、たった一つの練習問題やカンペを作るのです。例えば、商品知識が課題なら、全商品のスペックをまとめた資料ではなく、「今月、最も売りたい商品の、お客様からよく聞かれる質問TOP3と、その模範解答集」といったA4一枚の紙で十分です。
この「虫食いの武器」を持たせることで、新人は小さな成功体験を積むことができます。たった一つの質問に答えられた。たった一つのアポイントが取れた。この小さな成功が、「やればできる」という自信を生み、次のステップへ進むためのモチベーションになるのです。
究極の育成は、現場が「欲しがる」もの
一つ目の「虫食いの武器」が成果を出すと、組織に変化が生まれます。
新人が「あのカンペのおかげで、契約が取れました!」と喜ぶ。それを見た他の新人も「僕にもください!」と言い出す。マネジャーも「なるほど、ああいうものがあれば、教えやすいな」と気づく。
こうして、「育成コンテンツは、役に立つ良いものだ」という共通認識が生まれて初めて、次のステップに進みます。
「じゃあ、次にインパクトが大きい課題は何だろう?」 「次は、ヒアリング力を上げるための練習問題を作ってみようか」
そうこうしているうちに、今度は現場の新人から、こんな声が上がってくるはずです。
「〇〇さん、クロージングが苦手なんですけど、何か良い練習方法ありませんか?」
「競合と比較されたときの切り返しトーク集が欲しいです!」
こうなれば、しめたものです。現場から具体的な「リクエスト」が出てくる状態。これこそ、育成の仕組みが自走し始めた証拠です。あとは、そのリクエストに応える形で、一つずつ武器を増やしていけばいい。
スペインのサグラダ・ファミリアのように、最初から完成を急ぐ必要はありません。現場で本当に必要とされ、使われるものを、一つ一つ丁寧に作り上げていく。そうやって増えていった「虫食いの武器」の集合体が、最終的に、あなたの会社だけの、どこにも負けない最強の育成体系となるのです。
まずは「A4一枚のカンペ」から始めよう
新しい営業メンバーの成長スピードを上げるための、新しいアプローチ。そのヒントは掴めたでしょうか。
大切なのは、壮大な計画を立てることではありません。今すぐ始められる、小さな一歩を踏み出すことです。
まずは、あなたの会社の新人たちが、一番最初につまずいている「たった一つの壁」が何なのかを、見つけてあげてください。
そして、その壁を乗り越えるためだけの、A4一枚の「カンペ」を作って、彼らに渡してあげてください。
それは、完璧でなくていい。むしろ、手書きの汚いメモくらいの方が、温かみがあって良いかもしれません。
そのたった一枚の紙が、成長の止まっていた新人の背中を押し、あなたの会社の営業組織全体を、自律的に進化させる、大きな原動力になるはずです。
人が育つ「仕組み」で、会社を成長させませんか?
個人の才能や、マネジャーの勘に頼った属人的な育成から脱却し、誰もが着実に成長できる「仕組み」を構築すること。それこそが、持続的な売上成長を実現し、変化の激しい時代を生き抜く、強い営業組織の土台となります。
もし、
- 新人が次々と育ち、自ら学び、成果を出す「文化」を組織に根付かせたい…
- 営業担当者の離職率を下げ、誰もが長く活躍できる環境を整えたい…
- 経営者やマネージャーが、育成の悩みから解放され、より戦略的な仕事に集中したい…
と本気でお考えの経営者、マネージャーの方がいらっしゃいましたら、ぜひ一度、私たちにご相談ください。
トレテクでは、あなたの会社の現状と課題に合わせて、最もインパクトの大きい「最初の一撃」を共に考え、人が育つ「仕組み」作りをゼロからサポートします。
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最後までお読みいただき、ありがとうございました。