優秀な営業は見積提示前に「売れる」 価格競争から抜け出すためにできること

「うーん、素晴らしい提案ですね。ただ、少しだけ…考えさせてください」
商談の最終盤。お客様から投げかけられる、この一言。あなたは、この言葉の裏に潜む「価格へのためらい」を感じ取り、背筋に冷たい汗が流れるのを感じます。
(ここで逃してはいけない…) (あと一押しだ…)
その焦りと恐怖から、あなたの口からは、いつもの「禁断の言葉」が滑り出てしまいます。
「…承知いたしました。もし、本日ご決断いただけるようでしたら、今回だけの特別価格でご提供させていただきます」
この瞬間、あなたは安堵のため息をつきます。しかし、その安堵と引き換えに、あなたは会社の利益を削り、商品の価値を自ら毀損し、そして何より「値引きをしなければ売れない営業」という、惨めな自己認識を、また一つ心に刻み付けてしまいます。
この記事は、そんな出口の見えない「値引き」という名の麻薬から抜け出せず、苦しんでいる営業担当者、そして、会社の利益と社員の誇りを守りたいと願う、すべての経営者・マネージャーの方々のために書きました。
この記事を読めば、安易な価格競争に身を投じることなく、お客様に心から価値を認めてもらい、堂々と定価で「あなたにお願いします」と言われるための、具体的な思考法と商談の進め方がわかります。
その値引き、会社の寿命を縮めています
「値引きは悪だ」と、頭ごなしに言うつもりはありません。ビジネスには、戦略的な価格設定が必要な場面もあるでしょう。
しかし、私がここで問題にしたいのは、クロージングの最終局面で、営業担当者が「お守り」のように、あるいは「思考停止の産物」として、安易に値引きを繰り返してしまう、という深刻な病です。
この病が、どれほど恐ろしいものか、あなたは本当に理解しているでしょうか。
第一に、営業担当者の成長を、根本から阻害します。 一度、値引きで契約を取る味を占めてしまうと、営業は「お客様の課題を深く理解し、価値で納得してもらう」という、最も重要で、最も頭を使う仕事を放棄してしまいます。
「どうせ最後は安くすればいい」という考えが、思考の隅々にまで蔓延し、提案力のない、ただの“価格交渉人”に成り下がってしまうのです。
第二に、お客様との関係を、脆弱なものにします。 「安いから」という理由であなたを選んだお客様は、より安い競合が現れれば、何の躊躇もなく、そちらに流れていくでしょう。
彼らが買っているのは、あなたの提案の価値ではありません。ただ、その瞬間の「安さ」でしかありません。そんなお客様は、果たして長期的なパートナー、いわゆる「良いお客様」になってくれるでしょうか。
そして何より、営業担当者の自己肯定感を、静かに、しかし確実に蝕んでいきます。 「どうせ自分は、安くしないと売れないんだ…」 そんな思いを抱えながら、お客様に頭を下げる日々。これでは、仕事への誇りなど持てるはずがありません。
もし、あなたの会社で、このような値引きが横行しているとしたら。それは、会社の未来の売上と、社員の働く誇りを、毎日少しずつ削り取っていることに他ならないのです。
勝負は「価格」ではない。「迷いが消える瞬間」で決まる
では、どうすれば、この負のスパイラルから抜け出せるのでしょうか。 その答えは、商談における「勝負のタイミング」を、根本的に捉え直すことにあります。
多くの営業は、「クロージング」、つまり契約をお願いする最後の瞬間に、勝負をかけています。そして、その土壇場で「価格」という武器を使おうとします。 しかし、それは大きな間違いです。 本当に焦点を当てるべきは、そこではありません。
営業が意識を集中させるべきは、お客様が心の中で「買う」と決める瞬間、すなわち「購買決定時点」です。
「購買決定時点」とは、お客様の頭の中にあった「どうしようかな…」「他の会社も見てみようかな…」といったモヤモヤとした“迷い”が完全に解消され、「よし、この会社に発注しよう」と、実質的に心が決まった瞬間のことを指します。
この「迷いの解消」を、「値段の安さ」という理由だけで行ってしまうのが、三流の営業です。 一流の営業は、価格以外の「価値」によって、この迷いを解消してみせます。そして、その価値提供の先に、ごく自然な流れとして、契約が存在するのです。
三流の営業のように、「買うかどうか」という土俵で勝負すると、どうしても価格の話になりがちです。しかし、「お客様の“迷い”を解消する」という土俵で勝負すれば、価格以外の価値で、いくらでも貢献できます。
では、そのお客様が心の中で「買う」と決める瞬間である「購買決定時点」は、いつ訪れるのでしょうか? ここに、ほとんどの営業担当者が気づいていない、衝撃的な事実があります。
衝撃の事実:契約は「見積もり提示前」に9割決まっている
驚くかもしれませんが、お客様の「購買決定時点」は、見積もりを提示する前に訪れるケースの方が、圧倒的に多いです。 これは、私が多くの経営者の集まりでお話しする際に、いつも大きな共感を得ることです。
経営者の方々は、日々、様々なものを「買う」立場にあります。だから彼らにとって、この感覚は「当たり前」なのです。「確かに、良い提案をしてくれる営業さんと話していると、値段を聞く前にもう『この人(会社)に頼もう』って、心の中では決まってるよね」と。
しかし、これが「売る側」の立場になると、途端に見えなくなってしまいます。 多くの営業担当者は、「見積もりを提示してからが、本当の勝負だ」と、固く信じ込んでいます。そして、提示した金額をお客様がどう判断するか、固唾をのんで見守ります。
そして、お客様が少しでも渋い顔をすれば、慌てて「値引き」のカードを切ろうとします。全く、勝負のタイミングが分かっていません。 見積書など、本来は「答え合わせの紙」に過ぎないのです。
お客様が心の中で「この会社に頼みたい」と決めた後で、「なるほど、この価値が、この値段で手に入るのか。納得だ」と、最終確認をするためのものです。 その前に、勝負はついているのです。
では、どうすれば、見積もりを出す前に、お客様の心を掴み、迷いを解消し、「購買決定時点」を作り出すことができるのでしょうか。
「要件整理」で、迷いの根源を特定せよ
そのための最強の武器が、「要件整理」です。「要件整理」とは、お客様の頭の中にある、課題、要望、悩み、懸念を、営業担当者がプロの視点で言語化し、「見える化」してあげることです。
実は、お客様自身も、自分が本当は何に、どう迷っているのかを、綺麗に整理できていることは稀だからです。その複雑に絡み合った思考の糸を解きほぐしてあげること自体が、お客様にとって絶大な価値提供となります。
多くのお客様の頭の中は、様々な情報や感情で、ごちゃごちゃになっています。 「売上を上げたいけど、人手も足りない…」 「新しいシステムを入れたいけど、社員が使いこなせるか不安だ…」 「A社は安いけど、サポートが心配。B社は高いけど、実績がある…」
この混沌とした状態のまま、いくら素晴らしい商品説明をしても、お客様の心には響きません。 そこで「要件整理」の出番です。 私たち営業が、お客様の“思考の翻訳家”になるのです。
お客様が断片的に話したことを、構造的に整理し、「お客様、今、悩まれているのは、要するにこういうことですよね?」と、一枚の絵として見せてあげます。
お客様との会話の中で出てきた言葉を、「現状の課題」「実現したい要望」「導入への懸念」の3つのカテゴリーに分類して、一枚の紙に書き出してみます。
そうすることで、お客様自身も気づいていなかった、課題の根本原因や、本当に大切にしたい価値観が、くっきりと浮かび上がってきます。
この「要件整理」を提示されたお客様は、どう思うでしょうか。「そうそう!まさに、それが言いたかったんだ!」「ここまで、私たちのことを理解してくれているのか…!」 と、感動すら覚えるでしょう。
この時点で、あなたは単なる「業者」から、信頼できる「パートナー」へと昇格します。
そして、ここからが本当の勝負です。 要件整理をしてもなお、お客様の表情に、わずかな曇りが残っています。それこそが、お客様の最後の「迷い」です。 その迷いを、その場で払拭するような、鮮やかな「決定打」を打ち込みます。
それは、圧倒的な「クイックレスポンス」かもしれないし、核心を突く一つの質問かもしれません。
いずれにせよ、ここまで完璧に課題を理解してくれているパートナーを、手放したいと思うでしょうか。価格が多少高くても、「この人になら任せられる」と思うのではないでしょうか。
まずは、お客様の「翻訳家」になることから始めよう
値引きをせずに、価値で選ばれるためのヒントは掴めたでしょうか。 いきなり完璧な要件整理をするのは、難しいかもしれません。でしたら、まずは、ごく簡単なことから始めてみましょう。
今、あなたが担当している案件のお客様を一人、思い浮かべてください。そして、これまでの商談で、そのお客様が口にした言葉を、ただ「書き出す」のです。そして、その言葉を「現状の課題」と「実現したい要望」の2つに、色分けでもしながら分類してみましょう。
たったこれだけでも、お客様の頭の中が少しだけ整理され、あなたが次に何をすべきかが、驚くほどクリアに見えてくるはずです。
「価格」で戦う営業から、「価値」で選ばれる営業へ
あなたの会社の営業は、お客様から「価格」で選ばれているでしょうか。それとも、「価値」で選ばれているでしょうか。
もし、あなたの会社が、これ以上、不毛な価格競争に疲弊したくない、社員に誇りを持って働いてほしい、と本気で願うのであれば、今こそ、営業の在り方を根本から見直す時です。
- 安易な値引きに頼らず、顧客の本質的な課題解決で選ばれる営業プロセスを構築したい…
- 営業担当者一人ひとりが、自信と誇りを持ってクロージングできる組織を作りたい…
- 会社の利益を最大化し、安定的な成長を実現する、本質的な営業戦略を学びたい…
そうお考えの経営者、マネージャーの方は、ぜひ一度ご相談ください。
トレテクでは、貴社の営業チームが「価格」ではなく「価値」で戦えるようになるための、具体的な戦略立案から、現場で使えるトークスクリプトの構築まで、一気通貫でサポートします。
まずは、60分間の無料オンライン相談で、貴社の現状と、これから目指したい未来の姿を、私たちに聞かせてください。
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あなたの会社の製品やサービスが、その本来の価値で、お客様から選ばれ続ける。そんな未来を、共に創り上げるお手伝いができることを、心から楽しみにしています。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。