AI時代の営業に効く「バーベル戦略」|9割の安全と1割の挑戦で売上を伸ばす方法

「営業に聞くより、AIに聞いた方が的確な答えが返ってくる」——経営者やマネジャーの間で、こんな会話が当たり前になってきました。情報収集も簡単な提案も、AIが瞬時にこなす時代。自社の営業担当者の存在価値に、漠然とした不安を感じ始めていないでしょうか。
この記事では、AIには真似できない人間ならではの付加価値の生み出し方と、無謀ではなく「賢く」リスクを取って売上を伸ばすための具体的な思考法「バーベル戦略」を解説します。読み終える頃には、御社の営業を「御用聞き」から「パートナー」へ進化させる最初の一歩が見えているはずです。
「100点満点の御用聞き」が行き詰まる理由
ここに、Aさんという非常に真面目で優秀な営業担当者がいるとします。お客様から言われた依頼は、納期通りに完璧にこなす。会社のルールも100%遵守し、決してトラブルを起こさない。経営者から見れば、まさに「安心できる人材」です。
ところが、長年付き合いのあるお客様から、Aさんはこう言われてしまいます。
「Aさんは、いつも確実で本当に助かっているよ。でもね、正直、君の提案にはあまりワクワクしないんだ。最近AIに相談したら、自分では思いつかない面白いアイデアをいくつも出してくれてね…」
これは他人事ではありません。お客様の課題が複雑になり、簡単な解決策が見つからなくなった今、「言われたことだけ」「できることだけ」を確実にこなす営業スタイルは、価値を急速に失いつつあります。なぜなら、その領域こそAIが最も得意とするところだからです。
過去のデータに基づいたそれっぽい情報を提示するだけなら、人間がAIに勝つのはもう難しい。リスクを取らない「100点満点の御用聞き」は、やがてその存在価値を問われることになります。私は20年以上、複数の業界で営業の現場を見てきましたが、この傾向はここ数年で一気に加速していると感じます。
AIが最も苦手とする「小さなリスクを取る」という付加価値
では、人間である営業はどこで付加価値を発揮すればいいのか。その答えは、AIが最も苦手とすること——つまり「小さなリスクを取る」という行為の中に隠されています。
「小さなリスクを取る」とは、無謀な賭けに出ることではありません。大きなトラブルにならない範囲で、不確実なことに対して自分なりに考えてチャレンジしてみる、ということです。
- お客様から言われてはいないけれど、もしかしたらこういうことに困っているのではないか?
- 会社として前例はないけれど、もしかしたらこんな解決策が提供できるのではないか?
まだ誰も正解を知らない領域に一歩踏み込む勇気。これこそ、AIには真似できない人間ならではの「インサイト(洞察)」であり、付加価値の源泉です。
そもそも、お客様が営業に相談するのはなぜでしょうか。自社だけでは解決策が見つからず、困っているからです。検索すれば出てくる情報で解決するなら、わざわざ人に相談などしません。彼らが求めているのは「正解」ではなく、「正解かもしれない、新しい視点」なのです。
「賢いリスクテイカー」になるための3つのステップ
とはいえ、リスクを取るのは怖いものです。失敗してお客様や会社に迷惑をかけたくない——当然の感覚です。では、どうすれば「上手に」リスクを取り、挑戦を成果につなげられるのか。営業を「無謀なギャンブラー」ではなく「賢いリスクテイカー」に変える、3つのステップをご紹介します。
ステップ①:最強の武器「社内外の味方」を作る
リスクを取る上で最も重要な準備は「味方作り」です。一人でリスクを背負おうとすると、プレッシャーで潰れてしまいます。いざという時に守ってくれる存在がいるからこそ、人は思い切ったチャレンジができます。
- 社内の味方づくり:普段から上司や他部署のキーパーソンと密に連携を取り、「この案件、前例のない提案をしたいのですが、ご意見をいただけませんか?」と事前に巻き込んでおく。そうすれば、万が一うまくいかなくても「一人で暴走した」ではなく「みんなで考えた結果だ」と組織として受け止めてもらえます。
- お客様を味方につける:「実は、御社のためにこんな思い切った提案を考えているんです」と、挑戦そのものをお客様と共有してしまう。「ぜひその方向で進めてほしい」という言葉を引き出せれば、それは社内稟議を通すための何より強力な後ろ盾になります。
こうして「大きな安心」を事前に確保しておくこと。これが賢くリスクを取る大前提です。ベテランだけでなく、素直に人を頼れる若手の方が、むしろ味方作りの才能を発揮することさえあります。
ステップ②:失敗を恐れない姿勢が最大の成長を生む
営業の成長において、「失敗を恐れずに挑戦する」という姿勢がスキルアップに大きな影響を与える傾向があります。
- Aさん:決められたことを、失敗しないように確実にやる。
- Bさん:多少の失敗は覚悟の上で、決まっていないことにも踏み込みチャレンジする。
長期的にどちらの成長幅が大きいかは明らかです。当然、後者のBさんでしょう。失敗は最高の学習機会です。「このやり方はうまくいかなかった」というデータは、「では次はどうすればいいか」を考えるための貴重な財産になります。
経営者やマネジャーの役割は、失敗しないように管理することではありません。「致命傷にならない失敗なら、どんどん経験してこい」と言える心理的安全性の高い環境を作ること。そして、その失敗を次に活かす「振り返りの仕組み」を組織に根付かせることです。
ステップ③:最強の思考法「バーベル戦略」を導入する
「小さなリスク」と聞くと、多くの人は「些細なチャレンジをたくさんする」とイメージするかもしれません。しかし、私が提唱したいのは少し違います。
ここで、投資の世界で有名な「バーベル戦略」をご紹介します。思想家ナシーム・タレブが提唱した、不確実な状況で成果を出すための優れた考え方です。バーベルの両端に重いおもりがあり、真ん中は細い棒でつながっている——これを営業に応用します。
- 片方の重り(全体の80〜90%):非常に安全で確実性の高い「守り」の活動。
- もう片方の重り(全体の10〜20%):ハイリスクだが、当たれば大きなリターンが期待できる「攻め」の活動。
要するに、「大半は徹底的に安全を確保し、残されたごく一部のリソースで思いっきり大胆な挑戦をする」という考え方です。「小さなリスク」の「小さな」とは、行動のインパクトが小さいという意味ではなく、持ち駒全体に占める「割合」が小さいという意味。その小さな割合の中では、むしろ今までやったことのないような思い切った行動を取ります。
たとえば、
- 担当するお客様が10社いるなら、8〜9社は既存のやり方で手堅く関係を維持し数字を固める。残りの1〜2社に、前例のないチャレンジングな提案をぶつける。
- 目標売上の80〜90%は成約確度の高い手堅い案件で積み上げ、残りの10〜20%を達成するために、新しい業界や大胆な値付けに挑戦する。
この戦略が優れているのは、大半の安全が確保されているため、たとえ挑戦が失敗しても会社や成績へのダメージが最小限で済む点です。しかし当たれば、新規市場の開拓、画期的な成功事例、営業本人の爆発的な成長といった、とてつもないリターンをもたらす可能性があります。
どこで守り、どこで、どれくらいのリスクを取って攻めるのか。この絶妙なバランス感覚こそ、教科書通りの模範解答を返すAIには現状できない芸当であり、これからの営業に求められる最高レベルの付加価値なのです。
まずは「1社」だけ、挑戦の相手を決める
AI時代の到来を、いたずらに恐れる必要はありません。むしろ、AIを便利な道具として使いこなしながら、人間ならではの価値で勝負できるエキサイティングな時代の始まりだと捉えるべきです。
御社の営業を、言われたことだけをこなす「作業員」から、自ら考え、賢くリスクを取り、お客様と新しい未来を創造する「パートナー」へと進化させていきませんか。まずは本当に小さな一歩で構いません。営業担当者に、こう問いかけてみてください。
「担当しているお客様の中で、たった1社だけ、思い切った挑戦をしてみたい相手を選ぶとしたら、どこだろう?」
そして、その1社に対して、今までの自分なら絶対にやらなかったであろうプラスアルファの提案を、たった一つだけ考えさせてみる。その思考のトレーニングこそが、AIに負けない「未来の営業」を育てる最初の種まきになります。

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