組織の「属人化」を防ぐ マネジャーの「ここまでしてやる必要ある?」への回答

「俺がプレイヤーだった頃は、こんな資料、誰も作ってくれなかったぞ」
「トークスクリプト? そんなもの、自分で考えて盗むのが当たり前だろう」
「最近の若い奴は、何から何までお膳立てしてやらないと動けないのか…」
かつてはトッププレイヤーとして誰よりも高い売上を叩き出し、その実績を買われてマネジャーになった。しかし、部下を前にすると、ため息ばかりが出てしまう。自分が当たり前にできたことが、彼らにはなぜできないのか。指導しようにも、どこから手をつければいいのか分からない…。
そして、部下の育成や組織の仕組み化について議論が及ぶたび、あなたの心には、ある一つの言葉が浮かび上がってくる。
「…そこまでしてやらないといけないんですか?」
この記事は、まさにこの言葉が口癖になってしまっている、かつて優秀なプレイヤーだった、すべての経営者、そして営業マネジャーのために書きました。
この記事を読めば、なぜその「正しさ」と「プライド」が、あなたの組織の成長を食い止め、優秀な人材の芽を摘んでしまっているのか、その不都合な真実がわかります。そして、マネジメントが苦手なあなただからこそできる、最も効果的で、組織を大きくするためのシンプルな行動指針が手に入ります。
あなたの「成功体験」が、会社の「属人化」を進行させる
あなたの会社では、こんな光景が「当たり前」になっていませんか?
特定のスタープレイヤー、あるいはマネジャーであるあなた自身が、売上の大半を稼ぎ出している。他のメンバーは、なかなか成果が出ず、自信を失い、指示待ち状態。会議で「組織全体の底上げ」や「営業の標準化」が議題に上がると、あなたは内心、こう思っている。
「結局、営業は個人の力量だ。売れないのは、本人の努力が足りないからだ」
「俺は誰にも教わらず、自分の力でここまで来た。甘やかすのは本人のためにならない」
そして、具体的な仕組み作りの話になると、冒頭のあの言葉が飛び出すのです。
「トークスクリプトを用意する? ロープレに付き合う? ここまでしてやらないといけないんですか?」と。
その気持ち、痛いほどわかります。あなたにとっては、それは紛れもない事実なのでしょう。あなたは、特別な支援などなくても、自らの才能と努力で、道を切り拓いてきた。その成功体験は、あなたの誇りであり、アイデンティティそのものであるはずです。
しかし、その輝かしい成功体験こそが、組織を蝕む「属人化」の正体なのです。
なぜなら、あなたは「超人」だからです。少なくとも、大多数の「凡人」から見れば、そう映ります。そして、組織の成長とは、「超人」をもう一人作り出すことではなく、「凡人」を安定して戦力化する仕組みを作ることに他なりません。
あなたの「ここまでしてやるのか?」という一言は、「俺は、凡人を育てる気はない」と宣言しているのと同じなのです。これでは、一部の超人だけが疲弊し、大多数の凡人が育たない「属人化」という病が、組織全体に蔓延していくのは当然の結果と言えるでしょう。
なぜ、「支援しない」方が、はるかに大きな害悪なのか?
「しかし、手厚く支援しすぎると、部下が自分で考えなくなるんじゃないか?」
「ハングリー精神がなくなって、甘ったれた組織になるのは避けたい」
非常によくわかります。これは、多くの真面目なマネジャーが抱く、もっともな懸念です。
しかし、「会社からの支援が不足している」と感じている組織のメンバーほど、2つの深刻な問題が発生してしまいます。
問題①:「どうせやっても無駄」という“あきらめ”が蔓延する(固定マインドセット)
一つは、メンバーが「固定マインドセット」に陥りやすい、ということです。 これは、「人間の能力なんて、努力したところで大して変わらない」という考え方です。
このマインドセットが組織に蔓延すると、どうなるか。メンバーは新しいスキルの習得を諦め、困難な目標への挑戦を避け、組織全体の成長が完全に止まります。売上が上がるはずもありません。
会社が「個人の成長」を支援する姿勢を見せないことが、「どうせ、この会社は俺たちの成長なんて期待していないんだ」というメッセージとして伝わり、メンバーの心を蝕んでいくのです。
問題②:「自分で工夫する」という“試行錯誤”がなくなる
そして、もう一つの深刻な問題は、メンバーが「自分なりに、あれこれ試してみる」という、成果を上げる上で最も重要な行動を取らなくなることです。
既存のやり方に固執し、お客様の反応を見てアプローチを変えたり、新しいツールを試したり、といった自発的な工夫が、組織から一切失われてしまいます。
これは、会社が「成功するための武器」を提供しないことで、メンバーが「何を試せばいいか分からない」という途方に暮れた状態に陥るか、あるいは「どうせ工夫しても評価されない」と無力感を学習してしまうからです。
メンバーを本当にダメにする「本当の悪」とは?
「それでも、支援しすぎは良くないはずだ」と思われるかもしれません。 その通りです。ただし、あなたが「良くない支援(甘やかし)」だと思っているものは、おそらく間違っています。
メンバーの自律性を奪い、成長を止める「本当の悪」。それは、「手厚い支援」のことではありません。 それは、以下の2つです。
- 上司による「余計な介入」:「そのやり方はダメだ」「俺の言う通りにやれ」「余計なことはするな」といった、部下の行動を制限し、マイクロマネジメントする行為です。
- 「失敗を許さない」という組織の空気:一度の失敗で厳しく叱責されたり、評価を下げられたりする。そんな環境では、誰も新しい挑戦などするはずがありません。安全な前例踏襲に終始するだけです。
お分かりでしょうか。 トークスクリプトを用意したり、営業ツールを充実させたりする「支援」は、メンバーの自律性を奪いません。むしろ、彼らが安心して挑戦するための「安全基地」や「武器」を提供する行為です。
メンバーをダメにするのは、その武器を自由に使わせず、「使い方まで、すべて俺の言う通りにしろ!」と縛り付けることなのです。
「面倒くさい」と感じた時こそ、最大のチャンスである
もう一度、結論を繰り返します。 マネジメントが苦手な、元エースプレイヤーのあなた。そんなあなたが、組織を大きくするために、今すぐやるべきこと。
それは、あなたが「ここまでしてやらないといけないのか?」と、最も面倒くさいと感じ、最も抵抗を覚えることこそを、あえて実行することです。
なぜなら、その「面倒くさいこと」こそが、あなたのような「超人」と、その他大勢の「凡人」とを隔てる、最も大きな壁だからです。その壁を埋める作業、すなわち、凡人が成果を出すための「トークスクリプト」「営業ツール」「FAQ」「ロープレ」といった仕組みを、一つ一つ地道に整備していくこと。
それこそが、マネジメントの本質であり、あなたの今の仕事なのです。 マネジメントが得意な人というのは、この作業を「面倒だ」とは感じません。それを「会社の資産となる仕組みを作ること」だと理解し、淡々と、そして楽しんで実行しているのです。
「ここまでしてやるのか?」という心の声が聞こえたら、それは、あなたのプライドが邪魔をしているサインであり、同時に、あなたの組織が次のステージへジャンプアップするための、「伸びしろ」が見つかったサインでもあります。
まずは、属人化を打ち砕く「最初の一撃」を
明日から、たった一つでいいので、試してみてください。
あなたが、「こんなことまで…」と、ほんの少しでも思った、メンバーのための支援タスクを、あえて一つだけ、実行してみることです。
それは、たった一人の部下のために、30分だけロープレの相手をしてあげることかもしれません。 あるいは、お客様からよく聞かれる質問とその回答を、5つだけ書き出して共有してあげることかもしれません。
完璧でなくて構いません。その、あなたのプライドを打ち破る、小さな、しかし具体的な行動こそが、属人化という固い岩盤に風穴を開ける、ハンマーの「最初の一撃」になるのです。
「仕組み」で勝てる組織に、変革しませんか?
特定のスタープレイヤーの個人の能力に依存する、不安定で再現性のない経営から脱却する。そして、誰もが活躍でき、安定して成果を上げ続けられる「仕組み」を持った、強い組織を構築する。これこそが、企業の持て続的な売上拡大を実現する、唯一の道です。
もし、
- 「属人化」から抜け出せず、組織の成長が頭打ちになっている…
- マネジャーが、プレイヤー時代の成功体験から抜け出せずにいる…
- 誰もが安心して挑戦でき、成長できる「勝てる仕組み」を本気で作りたい…
と強く願う経営者、マネジャーの方がいらっしゃいましたら、ぜひ一度ご相談ください。
トレテクでは、「超人」に頼る組織から、「仕組み」で勝てる組織へと、あなたの会社を変革するための、具体的で実践的なサポートを提供します。
まずは、60分間の無料オンライン相談で、貴社が抱える組織の課題や、あなたが直面している「ここまでやるのか?」という葛藤について、お聞かせください。
また、日々のマネジメントに役立つヒントや、強い組織作りの考え方などを、Instagramでも発信しています。こちらも、ぜひフォローしていただけると嬉しいです。
あなたの「ここまでしないといけないのか」という感情が、会社を大きく成長させる「宝の山」に変わる日を、心から楽しみにしています。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。