“価格”に固執するお客様に、“価格”を超えた価値を提供する戦略的ディスカッション

「素晴らしい製品ですね。…で、おいくらですか?」
「なるほど。ただ、A社さんはもっと安い見積もりを出してきてるんですよ」
「もう少し、価格、何とかなりませんかねぇ…」
あなたの会社の営業担当者は、今日もお客様からこんな言葉を投げかけられ、ぐっと奥歯を噛み締めてはいないでしょうか。どれだけ製品の魅力を熱心に語っても、最後は必ず「価格」という分厚い壁にぶち当たる。
この不毛な消耗戦に、経営者であるあなた自身、ほとほと嫌気が差しているかもしれません。
この記事は、そんな「価格競争」という名の終わりのない泥沼から、自社と、そして大切な社員たちを救い出したいと願う、すべての経営者・営業マネージャーのために書きました。
この記事を最後まで読めば、なぜお客様が価格の話ばかりするのか、その意外な正体が分かります。そして、「価格」という一点しか見ていなかったお客様の視野をぐっと広げ、あなたの会社の「本当の価値」に目を向けさせるための、極めて具体的で強力な3つの質問術が手に入ります。
なぜ、お客様は「価格」の話ばかりするのか?
まず、我々は一つの残酷な事実を認めなければなりません。お客様が価格の話に固執するのは、多くの場合、「価格以外に、何をどう判断すれば良いのか、分からないから」です。
彼らは、別に意地悪で値下げを要求しているわけではありません。目の前にある複数の選択肢の中から、最も合理的な決断を下したい。しかし、そのための「物差し」が、たまたま「価格」しかない。ただ、それだけなのです。
テレビを買うときを想像してみてください。4K、有機EL、倍速液晶、HDMI2.1…よく分からない専門用語が並ぶ中で、一番分かりやすい判断基準は、やはり「値段」ですよね。それと同じことが、あなたの業界でも起きているのです。
ここに、営業という仕事の、本当の介在価値があります。お客様が一人では気づけなかった、より本質的で、より重要な「判断軸」を、対話を通じて提供してあげること。
お客様を「価格」という呪縛から解き放ち、より良い未来へと導く水先案内人になること。それこそが、これからの営業に求められる役割なのです。
多くの営業は、お客様が価格に固執し始めると、途端に思考停止に陥ります。そして、「他に何か検討すべき点はありますか?」などと、漠然としたオープンクエスチョンを投げかけてしまう。しかし、これは致命的な間違いです。
考えてもみてください。お客様が自分で考えて「抜け漏れ」に気づけるレベルなら、そもそも営業など必要ないのですから。
顧客の“判断軸”を揺さぶり、進化させる3つの質問
お客様を価格競争の泥沼から救い出すために必要なのは、お客様の「判断軸」そのものを、良い意味で揺さぶり、より高い次元へと進化させてあげるディスカッションです。そのための3つの戦略的アプローチをご紹介しましょう。
戦略①:【網羅感】お客様がハッとする気づきで、営業は「信頼できる相談相手」へ
お客様が一人では決して気づけない「検討の抜け漏れ」を、プロフェッショナルとして、こちらから提示しましょう。
「危ない。この営業がいなかったら、うっかり損をするところだった」というお客様の体験こそが、価格を超えた「信頼」を醸成する最初のステップだからです。
例えば、「検討すべきポイントは、以上で全てでしょうか?」 この質問に、お客様が「はい、大体そんなところです」と答えた瞬間、三流の営業は「承知いたしました。では、これを基に提案書を作成します」と言ってしまいます。これでは、お客様の言いなりになるだけの御用聞きです。
一流の営業は、ここからが腕の見せ所です。
「承知いたしました。ただ一点だけ、よろしいでしょうか。先ほど挙げていただいたポイントは、あくまで“現状”の課題を解決するためのものかと存じます。仮に3年後、市場のルールが変わった場合や、御社の事業が拡大した場合の“拡張性”という視点については、今の段階で少し考慮に入れておかれても良いかもしれませんがいかがでしょうか?」
どうでしょうか。お客様の頭の中には全くなかった、新しい「判断軸」が提示された瞬間です。お客様は、ハッとさせられます。「確かに、その視点は抜けていた…危なかった」と。
この「抜け漏れに気づかせてくれた」という小さな衝撃こそが、営業担当者を「ただの売り子」から「信頼できる相談相手」へと昇華させるのです。お客様は、もはや価格だけであなたを判断しようとはしなくなります。
なぜなら、あなたの存在そのものが、失敗のリスクを回避してくれる「保険」のような価値を持ち始めるからです。
次の商談で、「ちなみに、〇〇という将来的なリスクについては、既にご検討されていますか?」と、一つだけこちらから新しい論点を追加してみましょう。
戦略②:【具体化】2択の質問で、お客様自身も気づいていない「本当の目的」をあぶり出す
お客様の漠然とした要望を、鋭い「2択の質問」を駆使して、解像度の高い具体的な目標へと磨き上げていきましょう。
お客様の頭の中にあるモヤモヤを晴らす手伝いをすることで、「この営業は、我々が本当にやるべきことを明確にしてくれるパートナーだ」と認識されるからです。
「もっと業務を効率化したいんです」というお客様の言葉に、「具体的には、どうされたいですか?」と聞き返すだけでは、仕事をしているとは言えません。それは、思考の具体化という最も困難な作業を、お客様に丸投げしているだけです。
プロの営業は、お客様の思考の進化を積極的にサポートします。
「『業務効率化』、素晴らしいですね。ちなみに、その目的はどちらに近いでしょうか。例えば、A:『作業時間を減らし、社員の残業をなくすこと』ですか? それとも、B:『生まれた時間で、新しい付加価値を生み出す活動にシフトすること』でしょうか?」
この2択の質問は、単なる確認ではありません。お客様自身も気づいていなかった、「効率化の先にある、本当の目的」をあぶり出すための、強力な触媒なのです。
もしお客様が「Bに近いな…」と答えれば、そこから「では、具体的にどんな付加価値を生み出したいですか?」という、より本質的な対話へと展開していくことができます。
営業がいるからこそ、漠然とした願望が、具体的な目標へと変わっていく。このプロセスを共に体験すること自体が、お客様にとってかけがえのない価値となるのです。
上記のように、お客様から「業務を効率化したい」と言われたら、「それは『今と同じ成果を、より短い時間で出す』イメージですか? それとも『今と同じ時間で、より多くの成果を出す』イメージですか?」と2択で返してみましょう。
戦略③:【優先順位】厳しい現実を直視させる「トレードオフ」を提示する
「あれもこれも欲しい」という顧客の幻想を、「トレードオフ(二律背反)」の提示によって、現実的で覚悟のある意思決定へと導きます。
何かを得るためには何かを失う、というビジネスの原則をテーブルの上に乗せることで、お客様は初めて「自分たちにとって本当に重要なことは何か」について真剣に考え始めるからです。
「何が一番大事ですか?」と聞かれて、「価格も、品質も、納期も、全部大事です」と答えるのは、ある意味当然のことです。誰だって、全てを手に入れたい。しかし、そんな魔法のような選択肢は、ビジネスの世界には存在しません。
ここで営業がすべきなのは、「全部大事ですよね、分かります!」と安易に同調することではありません。あえて、厳しい現実を直視させる「トレードオフ」を提示することです。
「おっしゃる通り、価格と品質の両立は永遠のテーマですよね。ただ、もし仮に、『最高の品質』を追求するとなれば、どうしても特別な素材と熟練の技術が必要になり、価格は少し上がってしまいます。一方で、『徹底的なコスト削減』を優先するなら、一部の機能をシンプルにする必要があります。御社が今回のプロジェクトで、絶対に達成しなければならないゴールは、どちらに近いでしょうか?」
この質問は、お客様に「選択」と「覚悟」を迫ります。「あれもこれも」という心地よい幻想から抜け出し、「我々にとっての不退転の一線はどこか」という、経営の根幹に関わる意思決定を促すのです。
この痛みを伴うプロセスに真摯に付き添うことこそ、営業の誠実さの証です。そして、この厳しい問いを乗り越えて共に導き出した「優先順位」こそが、価格という単一の物差しを無力化する、最強の判断軸となるのです。
「コストも重要ですが、品質も譲れません」と言われたら、「承知いたしました。仮に、どちらか一方を10%だけ妥協するとしたら、どちらになさいますか?」と問いかけてみるのも一つの質問方法です。
読者の次のアクション:まずは“抜け漏れリスト”を作成する
価格競争からの脱却。その第一歩は、決して難しいものではありません。
まずは、あなたの会社のデスクで、静かに時間を取ってください。そして、「自社の製品・サービスを検討する際に、お客様がよく見落としがちな“検討の抜け漏れポイント”」を、一つだけでいいので、紙に書き出してみてください。
それは、将来的な拡張性の問題かもしれませんし、導入後の運用コストかもしれません。あるいは、社員への教育サポートの重要性かもしれません。
その「たった一つの抜け漏れポイント」こそが、次回の商談であなたがお客様に提供すべき、価格を超えた価値の第一歩です。
価値を語り、顧客を導くコンサルティング集団へ
あなたの会社は、いつまで「価格」という土俵の上で、終わりのない消耗戦を続けますか?
価格でしか勝負できない営業組織は、いずれ必ず疲弊し、その価値を失っていきます。これからの時代を生き残るのは、「網羅感」「具体化」「優先順位」という3つの武器を手に、お客様の判断軸そのものを進化させ、より良い未来へと導くことができる営業です。
もし、
- 値下げ要求に怯える日々から、営業チームを解放してあげたい…
- 価格ではなく、「価値」で選ばれ、正当な利益を確保できる会社になりたい…
- 顧客から「あなたに相談してよかった」と心から感謝される、誇り高い営業組織を創りたい…
と、本気でお考えの経営者・営業マネジャーの方がいらっしゃいましたら、ぜひ一度ご相談ください。
トレテクは、単なる営業テクニックを教える場ではありません。あなたの会社が「価格競争」という呪縛から完全に解き放たれ、顧客と共に成長していくための、組織的な仕組み作りそのものをお手伝いします。
まずは60分間の無料オンライン相談で、貴社が直面している価格の問題と、私たちが提供できる解決策について、具体的にお話しさせていただければと思います。
また、日々の営業活動のヒントや、コンサルティングの現場からの気づきなどを、Instagramでも発信しています。こちらも、ぜひフォローして、貴社の営業改革の参考にしていただければ幸いです。
あなたの会社が、価格の呪縛から解き放たれ、その手で顧客の未来を創造する。その輝かしい変革の第一歩を、共に踏み出せる日を心から楽しみにしています。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。