お客様からの「お返事待ち」は黄信号 お客様が営業と関係を維持したくなる2つの戦略

「A社の件、どうなってる?」
あなたの会社の営業会議。マネジャーがホワイトボードに書かれた案件リストを指さしながら、担当者に問いかけます。すると、恐らく9割以上の確率で、こんな答えが返ってくるのではないでしょうか。
「はい、先週提案書をお送りして、現在、お客様からの“お返事待ち”です」
この「返事待ち」という言葉。ビジネスシーンで当たり前のように使われていますが、経営者であるあなたは、この言葉が持つ本当の恐ろしさに気づいているでしょうか。それは、成長を止め、じわじわと会社を蝕んでいく、極めて危険な「思考停止」のサインに他なりません。
この記事は、「待つ」ことが仕事だと勘違いしている営業担当者と、それを許してしまっている経営者・営業マネジャーのために書きました。
この記事を最後まで読めば、あなたの会社がなぜ「返事待ち地獄」に陥っているのか、その根本原因が明らかになります。そして、その地獄から脱出し、営業の主導権を完全に握り、面白いように受注率を高めていくための、極めて強力な「組織的」な仕組みが手に入ります。
その“待ち”は、美徳ではなく、ただの怠慢
提案を終えた営業担当者は、ある種の達成感に満たされています。そして、「ボールは相手にあるのだから、あとは信じて待つだけだ」と、自分を納得させます。下手に連絡をして「しつこい」と思われ、お客様に嫌われたくない、という繊細な心理も働くのでしょう。
気持ちは、分かります。しかし、断言します。営業において、「待つ」という行為から良い結果が生まれることは、ほぼ万に一つもありません。
大半のお客様は、あなたからの連絡を完全に拒絶しているわけではない。むしろ、「次の一手」を待っているのです。それにもかかわらず、こちらの勝手な思い込みで「待つ」という選択をしてしまう。
これは、お客様にとっても、そして自社の売上にとっても、あまりに大きな機会損失ではないでしょうか。
そもそも、追い回されるのが不快なのは、相手の都合を考えない、自分本位のコミュニケーションだからです。相手が本当に求めているものを提供し続ける限り、それは「しつこい営業」ではなく、「頼りになるパートナー」からの連絡に変わるのです。
では、どうすれば「待つ」ことをやめ、主導権を握り続けられるのか。その答えは、提案を終えた、まさにその瞬間にあります。
「返事待ち」を撲滅する、2つの組織的戦略
クロージング後の「待ち」をなくすために必要なのは、営業個人の気合や根性ではありません。会社全体で取り組むべき、2つの極めて戦略的な「仕掛け」です。
戦略①: “打ち止め感”を出すな! 営業の背後に「100の引き出し」を用意せよ
そもそも、お客様が「検討します」と言うのは、なぜでしょうか。それは、あなたの会社から提示された情報だけで「判断できる」と考えているからです。つまり、営業担当者が「私が提供できる情報は、これで全てです。打ち止めです」という空気を出してしまっているのです。
しかし、冷静に考えてみてください。「契約の判断に必要な情報」の境界線など、存在するのでしょうか。
ある経営者は見積金額だけで判断するかもしれません。またある担当者は、同業界の導入事例がなければ稟議を上げられないかもしれない。あるいは、導入後のサポート体制こそが最も重要だと考える人もいるでしょう。
そう、判断に必要な情報のラインは、人によっててんでバラバラなのです。この極めて不安定な状態でお客様に判断を丸投げしてしまうのは、あまりに無責任です。情報が不十分なまま下された決断によって、お客様が不利益を被る可能性だってあるのですから。
そこで、経営者として仕掛けるべきなのが、「この営業担当者は、まだまだ引き出しを持っているぞ」と思わせる状況を、組織ぐるみで作り出すことです。
例えば、自社の商品サービスの話とは全く別に、「お客様の業界が成功するためのノウハウ」や「競合他社が知らない最新トレンド」といった、純粋な「お役立ち情報」を、会社として100個ストックしておくとします(100はあくまで例えです)。
そして、営業担当者が提案を終える際に、こう付け加えるのです。
「本日ご説明したのは、弊社がご提供できる価値の、ほんの一部に過ぎません。実はまだ、御社の売上向上に直接貢献できる情報が、残り95個ほどあるんです。また折を見て、少しずつご紹介させてください」
こう言われたら、お客様はどう思うでしょうか。「この営業との関係を断ってしまうのは、なんだか勿体ないな」と感じるはずです。もらえるものは、もらっておきたい。それが人間の心理です。
こうして、お客様は自らシャッターを下ろすのではなく、むしろ「お役立ち情報を受け取る権利」をキープするために、あなたとの関係を維持しようとするのです。
これは、営業個人の能力に依存する話ではありません。会社のナレッジを「見える化」し、それを営業の武器として持たせる。経営者にしかできない、極めて重要な仕組み作りなのです。
早速、自社の商品サービスとは別に、お客様のビジネスに役立つ「お役立ち情報」のリストを組織として作成し始めてみましょう。
戦略②:“丸投げ”をやめよ! お客様の「社内会議」をアジェンダで支配せよ
「検討します」の裏側で、一体何が起きているか、想像したことはありますか?
多くの場合、あなたの会社の提案資料は、商談に出席していなかったキーパーソンたちに回覧されます。そして、担当者はこう聞かれるのです。「この会社から提案が来たんだけど、どう思う?」。
さあ、大変です。資料だけをポンと渡された人たちは、提案の背景も、営業担当者の人柄も知りません。そんな状況で「素晴らしい!すぐに契約すべきだ!」と積極的に賛成する人が、果たしてどれだけいるでしょうか。
大抵の場合、人はよく分からないものに対しては、保身のために「とりあえず気づいた懸念点を指摘する」という行動を取ります。
「ここの費用対効果の根拠が不明瞭じゃないか」「うちの業務フローに本当に合うのか」など、重箱の隅をつつくような意見が飛び交い、前向きだったはずの担当者の心も折れ、提案は静かに塩漬けにされていく…。これが、多くの提案がスタックする、偽らざる現実です。
この悲劇を防ぐために、我々がすべきこと。それは、お客様の社内会議で使われる「アジェンダ(議題リスト)」を、こちらから提供してしまうことです。
提案書を渡す際に、別紙でこう添えるのです。
「〇〇様、社内でご議論いただく際には、こちらの論点で進めていただくと、スムーズかと存じます」
【社内ご検討用アジェンダ】
・この投資によって、現状の最大の課題である「〇〇」は解決されるか?
・3年後を見据えた場合、どちらの選択が会社の成長に繋がるか?
・実行する上での懸念点は何か? それを乗り越える方法はあるか?
これは、一見すると親切なサポート行為です。しかし、その本質は、お客様の思考のフレームワークをこちらが規定し、議論の方向性を支配するための、極めて高度な戦略です。
さらに、このアジェンダ提供には、驚くべき副産物があります。こちらが「親切なサポート」という義務の行為をしたことで、相手に「少しぐらいのお願いは聞かなければ」という心理的な負い目が生まれるのです(返報性の原理)。
この心理状態を利用すれば、次のステップへの移行が、驚くほどスムーズになります。
「このアジェンダで、いつ頃、皆様とお話し合いをされるご予定ですか?」 「さようでございますか。では、その会議が終わった翌週の月曜日にでも、結果を教えていただくお時間を15分ほど頂戴できますでしょうか?」
どうでしょうか。ここまでお膳立てをすれば、「待つ」という選択肢は、もはやあなたの会社の辞書から消え去ります。これは、次のアポイントを自然に取り付けるための、魔法の仕掛けなのです。
次の提案時に、「ご検討用の論点リスト」として3つほどのポイントを箇条書きにして添えてみましょう。
読者の次のアクション:まずは3行の「検討用アジェンダ」を作ってみる
「待つ」ことをやめ、主導権を握る営業へ。その第一歩は、驚くほど簡単です。
まずは、あなたの会社が次に提出する提案書に添えるための、「社内検討用アジェンダ」の雛形を、たった3行でいいので作ってみてください。
難しく考える必要はありません。お客様が必ず考えるであろう、「課題は解決できるか?」「費用対効果は?」「リスクは?」といった普遍的な論点を、自社の言葉で書き出すだけでいいのです。
このたった3行のリストが、お客様の思考を整理し、社内議論を活性化させ、そしてあなたに次のアクションへの正当な権利を与えてくれる、魔法の杖となります。
個人の頑張りに依存しない、「仕組み」で勝つ営業組織へ
あなたの会社の売上は、いつまで一部のスーパースター営業マンの個人的な頑張りに依存し続けますか?
クロージング後の「待ち」をなくし、受注率を高めるのに必要なのは、個人のスキルやセンスではありません。お客様の心理を深く理解し、検討プロセスを科学的に管理する「組織としての仕組み」です。
もし、
- 営業会議から「返事待ちです」という報告を根絶したい…
- 営業担当者の精神的な負担を減らし、創造的な活動に集中させたい…
- 個人の能力に依存せず、組織力で安定的に売上を伸ばす仕組みを構築したい…
と、本気でお考えの経営者・営業マネジャーの方がいらっしゃいましたら、ぜひ一度、私たちにご相談ください。
トレテクは、小手先の営業テクニックを教える研修会社ではありません。あなたの会社の営業プロセスそのものを見直し、科学的な根拠に基づいた「勝てる仕組み」を、共に作り上げるパートナーです。
まずは60分間の無料オンライン相談で、貴社が抱える「返事待ち地獄」の現状と、そこから抜け出した先の未来について、お話をお聞かせください。
また、日々の営業活動のヒントや、コンサルティングの現場からの気づきなどを、Instagramでも発信しています。こちらも、ぜひフォローして、組織力アップの参考にしていただければ幸いです。
あなたの会社が、「待つ」という名の停滞から抜け出し、常に営業の主導権を握り、成長し続ける組織へと生まれ変わる。そのお手伝いができる日を、心から楽しみにしています。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。