“「検討する」だけで動かない顧客”のタイプを分析し、停滞した商談を前に進める

「いいですね、前向きに検討します」
その言葉を信じて、待てど暮らせど、一向に次のアクションがない…。期待に胸を膨らませたあの商談は、今やあなたの「塩漬け案件リスト」の最上段で、静かにホコリをかぶってはいないでしょうか?
熱意も、ロジックも、完璧だったはず。なのに、なぜお客様は動いてくれないのか。この停滞した状況は、多くの営業担当者の自信を奪い、ひいては会社全体の売上計画に暗い影を落とします。
この記事は、そんな出口の見えない「待ち」の状況に頭を悩ませる経営者や営業マネジャーのために書きました。
この記事を読めば、お客様がなぜ動かないのか、その根本原因を「3つのタイプ」に分解して突き止め、停滞した商談を再び力強く動かし始めるための、具体的で即効性のある方法が手に入ります。
“検討します”の連続で、営業の心が蝕まれていく
「あの件、いかがでしょうか?」
あなたが送った、丁寧なフォローアップメール。しかし、返ってくるのは、いつも同じ定型文。「社内で前向きに検討を進めております。もう少々お時間をいただけますでしょうか」
電話をかけても、担当者はどこか歯切れが悪い。「今、ちょっと別の案件が立て込んでまして…」「上長が出張中でして…」といった、真偽のほどが定かでない理由が並びます。手応えは、確かにあったはずなのに。あの商談での盛り上がりは、一体何だったのか。
気づけば1ヶ月、2ヶ月が経過。期待していた売上は見込めず、月末の営業会議で役員から「あの大型案件、どうなった?」と詰められるたびに、あなたの心臓はキュッと縮こまります。
「熱意が足りないのかもしれない」
そう考えたあなたは、何度も訪問のアポを取ろうとしたり、追加の導入事例を送ったりと、あらゆる手を尽くします。しかし、打てば打つほど、相手の反応は鈍くなっていく。それどころか、その声色からは、どこか迷惑そうな気配すら感じ取れてしまう…。
良かれと思ってやった行動が、すべて空回りしていく感覚。自分の存在が、相手にとって「しつこい営業」になっているのではないかという恐怖。この、報われない努力と精神的なプレッシャーこそが、優秀な営業担当者の心を静かに、しかし確実に蝕んでいくのです。
このままでは、大切な社員が疲弊し、貴重な契約の機会を逃し続けることになりかねません。
停滞の“病巣”を見極め、的確な一手を打つ
なぜ、お客様は動かないのか。その原因を特定せずに闇雲にアプローチするのは、病名が分からない患者に、手当たり次第に薬を投与するようなものです。まずは、お客様が「なぜ動けないのか」を正しく分析することから始めましょう。
お客様が動かない理由は、突き詰めれば、たった3つしかありません。
1.顧客が動かない本当の理由を「Will / Must / Can」で見極める
この3つのフレームワークは、停滞した商談を動かすための、非常に強力な診断ツールです。
Willの問題
担当者本人が、心の底から「それをやりたい」と思っていない状態。立場上、検討はするものの、情熱や主体性がない。
Mustの問題
担当者は乗り気かもしれないが、会社の計画や目標といった、より大きな「やるべきこと」のベクトルと、あなたの提案が合致していない状態。優先順位が低い。
Canの問題
やりたいし、やるべきだとも思っている。しかし、具体的な進め方(社内調整、資料作成、言語化など)が分からず、能力的な問題でフリーズしてしまっている状態。
あなたの目の前のお客様は、どのタイプでしょうか? 原因が分かれば、打つべき手は自ずと見えてきます。
お客様のタイプを特定せずに闇雲にアプローチしても、空回りするだけです。相手の状態を正しく診断し、処方箋を変えることが、停滞を打破する唯一の道だからです。
今抱えている塩漬け案件の担当者が、この3つのうち、どの状態で止まっているのかを冷静に分析してみましょう。
2.タイプ①:「やりたくない(Will)」顧客には、商品を売るな。「個人的な悩み」の共同発見者になれ
担当者のWill(意思)が欠けている場合、いくら商品のメリットを説いても、暖簾に腕押しです。そんな時は、大胆に戦略を変えましょう。商品を売ることを、一度完全に諦めるのです。
そして、こう切り出します。
「今日は弊社の話を聞いていただきありがとうございます。ただ、少しお話していて、〇〇様が今一番解決したいことは、別のところにあるのかな、とも感じました。差し支えなければ、弊社のことは一旦忘れていただいて、〇〇様ご自身が、今一番課題に感じていることを教えていただけませんか?」
このとき、PowerPointの編集モードや、PCのメモ帳アプリを画面共有し、相手の発言をその場でタイプしていくのが非常に有効です。綺麗な議事録である必要はありません。「あくまでメモ書きですよ」というラフな雰囲気で、相手の言葉をどんどん「見える化」していくのです。
こうして、担当者個人の悩みや問題意識を、一通り吐き出してもらう。すると、相手の中にはあなたに対する警戒心が消え、「この営業担当者は、自分のことを理解しようとしてくれている」という、確かな信頼感が芽生えます。
人は、自分の話(特に悩み)を真剣に聞いてくれる相手に心を開きます。商品を売る前に、まず「この人は自分の味方だ」と思ってもらうことが、遠回りに見えて一番の近道です。
その上で、最後にこう尋ねるのです。
「〇〇様がそのようにお考えの状況で、今日、当社の話を聞いてみようと思っていただけたのは、どういった理由からだったのでしょうか? 何か小さなところでも、繋がりがあるはずだと思うのですが…」
この質問によって、お客様は自ら、自分のWillとあなたの提案との「接点」を探し始めてくれます。あなたが無理に繋げようとするのではなく、お客様自身にその繋がりを発見してもらう。これが、凍りついたWillを溶かすための、最も効果的なアプローチです。
3.タイプ②:「やるべきでない(Must)」顧客には、会社の“羅針盤”を一緒に読め
担当者の反応は悪くない。しかし、話が前に進まない。この場合、担当者のMust(やるべきこと)と、あなたの提案の間にズレが生じている可能性があります。担当者は、あなたの提案の価値を認めつつも、「でも、会社が今向かっている方向とは、ちょっと違うんだよな…」と感じているのです。
この場合も、Willのケースと同様に、まずは一旦自社の提案を脇に置きます。
「承知いたしました。御社の状況をより深く理解したいのですが、今、会社全体として取り組まれている最重要課題や、中期的な経営計画の方向性について、お聞かせいただける範囲で教えていただけますか?」
担当者の個人的な視点から、会社全体の視点へと、カメラのズームを引いてあげるのです。会社の羅針盤がどちらを向いているのかを、お客様と一緒に確認します。
担当者個人が乗り気でも、会社の方向性とズレていては契約という名の決裁は下りません。「木を見て森も見る」視点を提供することが、営業の価値だからです。
そして、一通り聞いた後に、あの魔法の質問を投げかけます。
「なるほど、会社としてはそのような大きな目標があるのですね。にもかかわらず、本日、私たちのサービスの話に時間を割いていただけたのは、なぜだったのでしょうか?」
この質問は、お客様に「会社のMust」と「あなたの提案」の関連性を、改めて考えさせるきっかけを与えます。お客様の口から語られるその「理由」こそが、あなたが提案書の中で最も強調すべき、会社のMustに応えるための重要なシナリオになるのです。
4.タイプ③:「やり方が分からない(Can)」顧客の“手”となり“頭”となれ
「やりたいし、やるべきだとも分かっている。でも、何から手をつけていいか…」
これが、Can(能力)の問題で止まっているお客様の、典型的な心の声です。言語化能力、資料作成能力、社内調整能力…。前に進めるためのスキルが不足しているために、アクセルを踏み込めないのです。
やる気はあるのに動けない人は、具体的なアクションプランを描けず、最初の一歩が踏み出せずにいます。その「できないこと」を実質的に手伝ってしまうのが、最も早く、確実に受注に繋がる方法です。
であるならば、答えは一つ。あなたが、そのスキルを貸してあげればいいのです。
「〇〇様のお考えは、非常によく分かりました。ただ、これを形にして、上長の方にご説明されるのは、なかなか骨が折れる作業かと思います。もしよろしければ、今この場で、パワーポイントを開いて、一緒にその骨子を作ってしまいませんか?」
これは単なる提案ではありません。「共同作業」という名の、強力なクロージングです。画面を共有し、お客様が話す内容をあなたがテキストに落とし込み、構成を整え、タイトルを付け、図解のラフを描く。場合によっては、稟議書のドラフトのほとんどを、その場で完成させてしまうのです。
これは、お客様からすれば、面倒な作業を肩代わりしてくれる、この上なくありがたい行為です。そしてあなたにとっては、お客様を「前に進めざるを得ない状況」に導き、商談の主導権を完全に握るための、極めて戦略的な一手なのです。
まずは“塩漬け案件”のタイプ別振り分けから
さて、動かない顧客を動かすためのアプローチ、ヒントは掴めたでしょうか。
この記事を読み終えたら、ぜひ、今あなたが抱えている「塩漬け案件リスト」を取り出してみてください。そして、一人ひとりのお客様が、「Will」「Must」「Can」のどの壁の前で立ち尽くしているのか、分析をしてみてください。
そして、次のアクションで、その分析結果に合わせた、たった一つの質問を投げかけてみるのです。そこから、止まっていた歯車が、再び大きな音を立てて動き始めるはずです。
商談を次に繋げるという選択肢
今回は、停滞した商談を何とか前に進めるためのアプローチについてお話ししました。しかし、お客様の状況によっては、無理に前に進めようとすることが、必ずしも正解とは限りません。
時には、「今回はご縁がなかった」と潔く判断し、その商談を「未来の種まき」に変えるアプローチが有効なケースもあります。
例えば、
- 「貴重なご意見を伺いたい」と、商品へのフィードバックをお願いする
- 「将来のために」と、お客様の課題整理を無償で手伝う(無料コンサルティング)
といった手も存在します。こうした一手間が、今は契約に繋がらなくとも、半年後、一年後に、競合他社にはない圧倒的な信頼関係として、大きな実を結ぶことがあるのです。
あなたの会社の営業は、停滞した案件を前に、ただ待つことしかできていませんか?そうであれば、顧客一人ひとりの状態を的確に診断し、どんな状況からでも受注へと導く戦略を手に入れることが必要です。
もし、貴社の営業力を本質から変え、安定的な売上を築きたいと本気でお考えの経営者の方がいらっしゃいましたら、ぜひ一度ご相談ください。
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あなたの、そして貴社の営業が、お客様から心から信頼され、選ばれ続ける存在になるためのお手伝いができることを、楽しみにしています。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。