若手が伸びる褒め方の鍵を握るのは「戦略的賞賛」|叱ると褒めるの正しい使い分け

「最近の若手は打たれ弱い」「褒めても響かないし、甘やかしているだけな気がする」——中小企業の社長や営業管理職から、こうした声を本当によく聞きます。しかし私は、この悩みの原因は若手の性格や根性ではないと考えています。

この記事では、叱ると伸びる人・褒めると伸びる人を分ける本当の分岐点と、褒めるを「ご機嫌取り」から「最強の育成手段」に変える具体的な方法をお伝えします。読み終える頃には、明日から使える見極めの基準が手に入ります。

目次

叱ると伸びる人・潰れる人を分ける本当の分岐点

まず前提を整理します。多くの上司は「あの人は気が弱いから褒めておこう」「あの人は根性があるから叱っても大丈夫だ」と、性格やストレス耐性で判断しがちです。しかし、マネジメントの本質から見ると、これは見立てを間違えていると私は感じます。

叱られて伸びる人と、叱られて潰れる人。この両者を分けているのは、性格の強さではありません。その人が「なりたい姿」や「自己目標」をすでに持っているかどうか、たったそれだけです。

  • 叱られて伸びる人:明確な理想があり、そこへ自力で向かうエンジンがすでにかかっている状態。だから「今の自分に何が足りていないか」を知りたい。厳しい指摘さえ、ゴールへ近づくための貴重なデータとして受け取れます。
  • 褒められて伸びる人:能力が低いわけでも心が弱いわけでもなく、単に「どっちに進めばいいか分からない」状態。なりたい姿がまだないため、自力でアクセルを踏めない。いわば霧の中で立ち尽くしています。

この違いを理解せず、全員を褒めて育てようとすれば、それはただのご機嫌取りで終わってしまいます。逆に、目標を持っている人に褒めばかりを重ねても、あまり意味がありません。彼らが知りたいのは「できているところ」ではなく「できていないところ」だからです。

霧の中で立ち尽くす若手に「叱る」が届かない理由

目標のない人を叱ると、何が起きるか。地図も持たずに知らない交差点に立っている場面を想像してみてください。どうしようかと一歩踏み出したら、横から「右に行くな」と怒鳴られる。「じゃあ左ですか」と聞けば「左でもない」と言われる。これでは一歩も動けなくなります。

これが、なりたい姿を持たない若手を叱り続けたときの状態です。ストレスだけが溜まり、前進する構造がまったく生まれません。ここで機能するのが「褒める」という声かけです。「この道に進むと景色が綺麗だよ」「君の足ならこっちの坂を登れるよ」と伝えることで、本人は「こっちに進めば正解なんだ」と分かります。

つまり褒めて伸ばすとは、甘やかしではなく行き先を示すナビゲーションなのです。よく「褒められて伸びるタイプはストレス耐性が弱い」と言われますが、私はこれは結果論だと考えています。どっちに行けばいいか分からない状態で、次々に道を塞がれれば、誰だって心は折れます。

大事なのは順序です。「弱いから褒める」のではなく、「強くするために、まず道を示すために褒める」。方向が定まり、本人が「この道でいい」と確信を持ち始めれば、そこから先の困難は自力で乗り越えられるようになります。ストレス耐性は、後からついてくるものなのです。

そもそも今の若手に「ハングリーになれ」が響きにくい背景

なぜ、なりたい姿を持たない若手が増えているのか。私はこれを本人の意欲や根性の問題だとは思いません。社会背景そのものが変わったと考えています。

かつては、世の中が不足だらけでした。美味しいものを腹いっぱい食べたい、おしゃれな服が欲しい、車が欲しい——けれど高くて手が届かない。この「満たされていない渇望」があったからこそ、「稼ぎたい」「そのために頑張ろう」という目標を、本人の意思とは関係なく標準装備できたのです。

一方、今はどうでしょう。ファストで安くておしゃれな服が買え、身のまわりのものは手頃な値段で便利に揃い、数百円でそこそこ美味しいものが食べられ、スマホ一台で世界中のエンタメが楽しめます。低価格で「そこそこの満足」がすぐ手に入る時代です。

喉が乾いていない人に「水を欲しがれ」と言っても難しい。生存に関わる渇望がない状態で「ハングリーになれ」「野心を持て」と言われても、持ちにくいのは当然です。だからこそ、外側から「こっちを求めているよ」とナビゲートしてあげる必要がある。その方法が「褒める」という方向づけなのです。

褒めるを最強の育成手段に変える「戦略的賞賛」3つのポイント

ここが最大のポイントです。多くの人が「褒める=お世辞を言う・ご機嫌を取る」と勘違いしていますが、これは完全な誤解です。マネジメントにおける褒めるとは「再現のリクエスト」——「君のその行動は正解だから、次も同じようにやってほしい」というメッセージを伝えることです。

だから、たまたまうまくいったマグレを褒めても意味がありません。本人が意識して行ったプロセスや工夫の中から、「これを繰り返せば必ず成果が出る」という部分を見つけ出し、ピンポイントで指摘する。私はこれを「戦略的賞賛」と呼んでいます。次の3つをセットで伝えると効果的です。

1. 再現してほしい行動を、具体的な事実で伝える

「今日のプレゼン良かったよ」では、部下は何を再現すればいいか分かりません。「今日のプレゼンで、競合他社との比較データを最初に見せた構成、あれがすごく分かりやすかった」と、再現すべき行動を事実として特定します。

2. なぜ良いのか、価値基準を伝える

「比較データが最初にあるおかげで、これは自社専用のプレゼンだと最初に伝わる。だからその後を真剣に聞いてもらえる姿勢ができた」——なぜその行動が効いたのか、意味を言語化します。

3. 未来へつなぐ方向を示す

「この構成は君の武器になる。次の案件でも、この『相手専用に見せる』パターンを再現してみよう」と、今後どう活かすかの方向を示す。ここまでやって初めて、本人は「自分のこの部分が、こういう理由で正解だったんだ」と腹落ちします。

これを繰り返すと、小さな成功体験が積み重なり、やがて自信に変わり、最終的には「自分はこうなりたい」という自発的な目標へと育っていきます。褒めるとは承認欲求を満たすケアではなく、「その手を次も使え」という具体的なサインを出し続けることなのです。

叱るタイミングを見極める、たった一つの判断基準

では、叱ってはいけないのかというと、そうではありません。叱り方は相手の状態によって変えるべきです。

褒められて伸びる段階の人には、良い点をすべて伝えた後に「ここはもう少しこうしていこう」と改善の方向で示す。まだ受け止められる状態にない人を叱れば、単なる萎縮になってしまいます。

見極めの基準はシンプルです。本人が「できているところ」を知りたがっているか、「できていないところ」を知りたがっているか。前者ならまだ褒めて方向を示す段階、後者なら改善点を指摘してよい段階、と私は判断しています。ここを見誤らないだけで、同じ言葉でも効果はまったく変わります。

最後に、私が最も伝えたいことを。今のマネジメントは、不足を埋めて欠点を修正するスタイルから、無限の可能性の中から進むべき道を共に発見するスタイルへと進化しています。

若手は一度「ここだ」という方向が見つかれば、デジタルネイティブ特有の情報収集力と柔軟な発想で、私たちの世代よりはるかに速く伸びていきます。年配のリーダーの役割は、彼らが自信を持って飛び立つための「滑走路」を作ってあげることなのです。

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私は営業×AI実装ディレクターとして、複数業界での20年以上の営業経験をもとに、中小企業の営業組織づくりを支援しています。「褒める・叱るを、その場の感覚ではなく仕組みとして回したい」「若手営業を再現性をもって戦力化したい」——そう感じた方は、ぜひ一度ご相談ください。

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トレテク代表 久保埜 実(くぼの みのる)
セールスパーソン戦力化コンサルタント
【著者プロフィール】

医療系企業の営業職として従事しながら、“セールスパーソン戦力化コンサルタント”として、東京都八王子市と日野市を中心に事業を展開。
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