メンバーの仮説構築力が向上 マネジャーの“ベクトル合わせ”質問術

「なんで、うちの部下は自分で考えずに、すぐ『どうすればいいですか?』と聞いてくるんだ…」

「『まずは自分の意見を持て』と何度言ったら分かるんだ…」

「メンバーの“考える力”が育てられず、結局いつも自分が動くしかない…」

中小企業の経営者や営業マネジャーであるあなたは、部下の育成において、このような壁にぶつかり、一人で頭を抱えていませんか?

もし、その終わりのない徒労感に悩んでいるなら、この記事を読めば、メンバーに「考えろ!」と感情的に指示するのをやめ、たった一つの“例え話”を共有するだけで、部下が自ら仮説を立て、お客様の深い信頼を勝ち取るようになる、具体的なOJTの方法が分かります。

これは、チームの営業力を底上げし、最終的に貴社の売上と契約を安定させる、思考の土台を書き換えるアプローチです。

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目次

「で、君はどうしたいの?」営業会議が“お通夜”になる瞬間

月曜朝の営業ミーティング。少し重い空気の中、あなたは部下の一人に問いかけます。「先週訪問したA社の件、今後のアプローチはどう考えてる?」

すると、部下は困ったような顔で、数秒間黙り込んだ後、こう答えました。「えーっと…、先方も前向きな感じではあったので、引き続き情報提供をしていこうかと…。それで、何か良い進め方、ありますでしょうか?」

またか…。あなたは、込み上げてくる深いため息をぐっとこらえます。「自分の意見は?」「仮説はないのか?」と問い詰めても、返ってくるのは要領を得ない返事ばかり。結局、「じゃあ、次はこういう資料を持って、こう話してみて」と、具体的な指示を出してしまう。

部下は「分かりました!」と元気よく返事をするものの、その目はどこか虚ろです。

これでは、部下はあなたの指示をこなすだけの“作業者”のまま。個人の成長は見込めず、チームとしての力も一向に上がりません。これでは、個人の能力に依存した不安定な営業活動から抜け出せず、持続的な売上アップなど夢のまた夢です。

多くの経営者やマネジャーが、この「部下が考えない」という問題に対し、「本人のやる気の問題だ」「最近の若い者は…」と、個人の資質のせいにしてしまいがちです。

しかし、本当にそうでしょうか? もしかしたら、部下が考えることを“放棄”してしまう原因は、あなたのマネジメントそのものにあるのかもしれません。

なぜ部下は考えないのか? マネージャーが陥る「3つの勘違い」

メンバーの「考える力」が伸び悩む現場には、共通する特徴があります。それは、マネージャー自身が、良かれと思ってやっている、しかし致命的な「勘違い」に囚われていることです。

勘違い①:「考える力」は魔法のように伸びると思っている

まず大前提として、「考える力」という、目に見えず、捉えどころのない能力は、魔法のように一朝一夕で身につくものではありません。「考えろ!」と100回唱えても、部下の頭の中に思考回路が突然インストールされることはないのです。

「考える力」とは、非常に抽象的な言葉です。それを「仮説を立てる力」「課題を構造化する力」「複数の選択肢を比較検討する力」といったように、具体的な行動レベルに分解し、一つひとつの動作をトレーニングしていく地道なプロセスが必要です。

この解像度の低さが、育成における最初のつまずきポイントになります。

勘違い②:「教える側」は考えなくても良いという傲慢

少し厳しい言い方になりますが、これが最も根深い問題です。

「自分はもうプレイヤーじゃないから」「マネジメントが仕事だから」と、お客様の課題について現在進行形で考えることをやめてしまっていませんか?

考えていない上司のそばにいて、部下の考える力が伸びることは絶対にありません。「自分は考えないけど、君は考えてよ」というのは、あまりにも無責任です。過去の成功体験を語るだけでは、変化の早い現代において、部下の思考を鍛えることはできません。

部下は、上司の「考え方」そのものではなく、「今、まさに考えているプロセス」に触れることで、思考の仕方を学ぶのです。マネージャー自身が、誰よりもお客様の課題について考え続ける「一番の思考プレイヤー」であることが、すべての大前提となります。

勘違い③:「課題解決=正解の提示」という思い込み

「お客様の課題はこれです。そして、その解決策は我が社のこの商品です!」

多くの営業研修では、このように鮮やかに課題を解決することがゴールだと教えられます。しかし、現実のお客様の課題は、そんなに簡単に解決できるものでしょうか?

長年、会社が抱え続けてきた根深い問題を、外部の人間が「はい、これで解決です」と提示して、お客様は「素晴らしい!」と即座に信用するでしょうか。むしろ、「そんな簡単な話じゃないんだよ…」と、不信感を抱くのが自然な反応ではないでしょうか。

この「課題を解決しなければならない」という強すぎる思い込みが、営業担当者から丁寧な思考を奪い、自社の商品を売り込むための強引なストーリー展開に走らせてしまうのです。これが、お客様との間に決定的な溝を生む原因となります。

部下の思考にエンジンをかける「ベクトル合わせOJT」4つのステップ

では、具体的にどうすれば、メンバーが自ら考え、仮説を立て、お客様と共に進む力を育てることができるのでしょうか? ここでは、明日からのOJTで実践できる4つのステップをご紹介します。

ステップ1:「課題解決」という呪いを解き、ゴールを再定義する

  • 結論: 「課題を解決する営業」ではなく、「課題が解決される方向へ、確かな前進を感じさせられる営業」を目指すことをチームの共通言語にする。
  • 理由: 「解決」という高いハードルは思考停止を招くが、「前進」という現実的なゴールは、次の一手を考えるための具体的な思考を促すから。
  • 一歩目: 次の営業会議で、「我々の仕事は、お客様に“少しでも前に進んだ”と感じてもらうことだ」と宣言してみる。

考えてみてください。まだ商品も導入していない段階で、営業ができることは限られています。お客様が費用対効果や導入事例を聞いてくるのは、まさに「本当にこの道で前に進めるのか?」という不安の表れです。

そこで私たちは、「100%解決します」という無責任な約束をするのではなく、「まずは、この一歩を踏み出せば、確実に今より良い未来に近づけます。一緒にその第一歩を踏み出しませんか?」と、お客様の背中をそっと押す存在になるべきなのです。

このスタンスの転換が、部下の精神的なプレッシャーを和らげ、お客様との誠実な対話の扉を開きます。

ステップ2:「目的の方角の例え話」で、思考の地図を共有する

  • 結論: 「どうやって解決するか(How)」を議論する前に、「どの方向(Which)に進むべきか」という“ベクトル合わせ”の重要性を徹底的に教える。
  • 理由: 進むべき方向が間違っていれば、どれだけ努力してもゴールにはたどり着けない。思考のエネルギーを最も注ぐべきは、この「方向性の特定」であるから。
  • 一歩目: OJTで、白い紙に円を描き、部下にこう問いかけてみる。「お客様の本当の目的地は、この地図で言うと、東・西・南・北のどっちだと思う?」

ここが、部下の考える力を伸ばす上で最も重要なポイントです。

多くの営業は、お客様から「北に行きたい」と言われると、思考停止で「分かりました!最高のロケットで北へお連れします!」と、解決策(How)の話を始めてしまいます。

しかし、本当に考える力のある営業は、こう自問します。「お客様は『北』と言っているが、本当の目的地は、少し東にずれた『北東』なのではないか? もしかしたら、全く逆の『南』に宝が眠っている可能性はないだろうか?」と。

部下にはこう伝えましょう。「北東と北西は、同じ北の仲間に見えるけど、角度で言えば90度も違う。このわずかなズレに気づかず全力で進んだら、ゴールからどんどん離れてしまう。怖いことだと思わないか?」

この“ベクトル合わせ”という概念を共有するだけで、部下は「お客様の言葉を鵜呑みにせず、その裏にある真意を探る」という、仮説思考の第一歩を踏み出すことができるのです。

ステップ3:ベクトルのズレを見抜く「5つの魔法の質問」

  • 結論: 部下が自ら仮説を立てられるように、OJTで以下の5つの質問を投げかけ、思考のプロセスをガイドする。
  • 理由: 優れた問いは、優れた答えを引き出す。この質問に答えるプロセス自体が、部下にとって最高の思考トレーニングになるから。
  • 一歩目: この5つの質問を印刷して手帳に貼り、次の商談準備の際に、部下と一緒に一つずつ答えてみる。

ベクトルを合わせるために、マネージャーがOJTで問いかけるべき質問は決まっています。

  1. お客様が口にした要望(北)と、私たちが考える真の課題(北東?)は、本当に同じだろうか?
  2. お客様は過去に、この課題を解決するためにどんな挑戦(進もうとした方角)をしてきたんだろう?
  3. なぜ、その挑戦はうまくいかなかったんだろう?(なぜその方角ではダメだった?)
  4. お客様にとっての本当の成功(最終目的地)とは、具体的にどんな景色のことだろう?
  5. その目的地にたどり着くために、なぜ私たちの船(商品・サービス)が最適だと言えるんだろう?

これらの質問を繰り返すことで、部下は「お客様の要望を聞く」レベルから、「お客様の課題を定義する」レベルへと視座が上がります。これが、凡庸な営業と、お客様から絶大な信頼を得て受注を重ねる営業との決定的な違いです。

ステップ4:マネージャー自身が「一番の探求者」であり続ける

  • 結論: 部下に問いかけるだけでなく、マネージャー自身も「俺はこう思うんだけど、どう思う?」と、自らの仮説を積極的に開示する。
  • 理由: 部下は、完成された答えではなく、上司の「生々しい思考プロセス」に触れることで、考え方を盗み、成長していくから。
  • 一歩目: 次のOJTで、「答えは俺も分からないんだ。だから、君の意見を聞かせてほしい」と、正直に伝えてみる。

最高のOJTとは、マネージャーが先生役になることではありません。マネージャーとメンバーが、同じ探求者として、お客様という広大な海を共に航海するパートナーになることです。あなたの「現在進行形の思考」こそが、部下の思考を刺激する最高の教材なのです。

まずは、その「地図」を広げることから始めよう

メンバーの考える力を伸ばす、新しいアプローチのヒントは掴めたでしょうか?

いきなり全てを実践するのは難しいかもしれません。でしたら、まずは、たった一つの、しかし最も効果的なことから始めてみませんか。

次の部下との1on1やOJTの場で、何も言わずに、ただ白い紙とペンを渡してみてください。そして、こう言うのです。「今、担当しているA社の地図を描いてみよう。A社が目指しているゴールは、どの方向にあると思う?」

この、たった一つの問いかけ。

それが、部下の思考を停止させる「どうすればいいですか?」から、思考を開始させる「私たちは、まずどちらへ進むべきでしょうか?」という、主体的な問いへと変える、魔法のスイッチになるはずです。

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“作業者”の集団から、“思考する”チームへ

あなたの会社の営業は、いつまで指示待ちの“作業者”集団であり続けますか?

マネージャーの「問いかけ」一つで、チームは劇的に変わります。メンバー一人ひとりが自らの頭で考え、仮説を立て、お客様を導くことができる「思考する営業チーム」を、あなた自身の手で育ててみませんか?

もし、

  • 部下の育成に限界を感じ、具体的な方法論を探している…
  • 個人の頑張りに頼る属人的な営業から、組織力で勝てるチームにしたい…
  • 安定的な売上と高い受注率を実現する、本質的なマネジメントを学びたい…

と本気でお考えの経営者・マネジャーの方がいらっしゃいましたら、ぜひ一度ご相談ください。

トレテクでは、メンバーの思考力を引き出し、自走するチームを育てるための、具体的な質問術やOJTの仕組みづくりを、貴社の状況に合わせてオーダーメイドでサポートします。

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あなたの、そして貴社のチームが、お客様から心から信頼され、共に未来を創るパートナーとして選ばれ続ける存在になるためのお手伝いができることを、楽しみにしています。

最後までお読みいただき、ありがとうございました。

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トレテク代表 久保埜 実(くぼの みのる)
セールスパーソン戦力化コンサルタント
【著者プロフィール】

医療系企業の営業職として従事しながら、“セールスパーソン戦力化コンサルタント”として、東京都八王子市と日野市を中心に事業を展開。
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