答えをはぐらかす顧客に、「楽で安全な逃げ道」を用意し本音を引き出す質問の技術

「予算については、御社のベストなご提案を見てから判断します」
「誰が決めるかですか? まあ、関係者で話し合って、ということになりますかね」
「導入時期は、内容次第ですねえ…」
営業の現場で、こんな“のらりくらり”とした返答に、頭を悩ませていませんか? こちらが勇気を出して核心に迫る質問をしても、お客様はするりとかわしていく。まるで、つかみどころのない暖簾(のれん)に腕押ししているかのよう。
結果、商談報告書には「顧客は前向きに検討中」と書くものの、その実、受注確度を測るための重要な情報(BANT情報)は何一つ得られていない…。これでは、精度の高い売上予測など立てられるはずもありません。
この記事は、そんなお客様の「はぐらかし」に心を消耗させられている営業担当者、そして彼らを率いる経営者やマネジャーの方々のために書きました。
この記事を読めば、なぜお客様があなたの質問をはぐらかすのか、その水面下にある深層心理が手に取るようにわかります。そして、その心理を逆手に取り、むしろ相手に気持ちよく情報を開示してもらうための、具体的で、今日から使える会話の設計方法が手に入ります。
あなたの質問は何度もはぐらかされ、空を切っていませんか
商談ルームの空気は和やか。雑談も弾み、商品の説明にもお客様は熱心に頷いてくれている。「よし、今だ!」あなたは、意を決して切り出します。
「ちなみに、もしご導入いただくとした場合、ご予算の規模感はどのようにお考えでしょうか?」
その瞬間、さっきまでの和やかな空気が、わずかに、しかし確実に変わるのを感じます。お客様の笑顔が少しだけ引きつり、視線が宙をさまよう。そして、一拍置いた後、こう返ってくるのです。
「そうですねえ、一概には言えませんから。まずは、御社からのベストなご提案を拝見させてください」
ゲームオーバーです。あなたは、これ以上踏み込む勇気を失い、「かしこまりました!」と明るく応じるしかありません。しかし、心の中では「まただ…」と、見えない壁にぶつかった徒労感に打ちのめされています。
多くの営業担当者は、この「はぐかされ」を経験すると、「こんなことを聞くのは失礼だったんだ」「お客様を怒らせてしまったかもしれない」と、自分を責め、質問すること自体に恐怖心を抱くようになります。
しかし、それは大きな誤解です。そして、その誤解こそが、あなたの会社の営業活動を停滞させ、売上を不安定にさせる元凶なのです。
はぐらかされたからといって、お客様の情報を知らないまま当てずっぽうの提案をすることの方が、よっぽど失礼で、ビジネス上のリスクが高いとは思いませんか?
お客様の心を理解し「安全な逃げ道」を用意することで、商談を前進させる
では、どうすればこの分厚い壁を乗り越えられるのでしょうか。答えは、お客様の心の内側を理解することにあります。
お客様は、あなたを困らせようとして、意地悪ではぐらかしているのではありません。そこには、極めて人間的な、ある心理が働いているのです。その心理を理解し、逆手に取ることこそが、商談を前進させる唯一の道です。
ここからはこのアプローチについて、具体的な会話例を交えながら、詳しく解説していきます。
大前提:お客様がはぐらかすのは「とっさの防御反応」である
まず、絶対に忘れてはならないのは、お客様はあなたという営業担当者が嫌いだから、あるいは、契約する気がないから、はぐらかしているわけではない、ということです(もちろん、そういうケースもありますが、それは少数派です)。
多くの場合、はぐらかしは「とっさの防御反応」であり、「一時的な現実逃避」に過ぎません。
質問された瞬間に、「どう答えようか…? 下手に答えて、何か損をしたり、面倒なことになったりしないだろうか…?」という、小さな、しかし無視できない懸念や不安が頭をよぎるのです。
心理学ではこれを「認知的不協和」と呼びます。心の中に「答えるべきか、答えざるべきか」という対立が生まれたとき、人間はその不快な状態から逃れるために、最も「楽で、安全な選択肢」を選ぼうとします。それが、「とりあえず、はぐらかしておこう」という行動なのです。
このメカニズムを理解すれば、攻略法は自ずと見えてきます。お客様が「楽で安全」だからはぐらかすのであれば、私たちがすべきことはただ一つ。
「はぐらかす」よりも、もっと「楽で、もっと安全な、別の選択肢」を、こちらから提示してあげることです。
具体例①:「意思決定者」をスマートに聞き出す方法
目の前の担当者が、どの程度の決裁権を持っているのかわからない。これは営業にとって死活問題です。しかし、ストレートに「今回の件の意思決定者の方はどなたでしょうか?」と聞くのは、悪手になりかねません。
なぜなら、もし目の前の担当者に十分な権限がなかった場合、「あなたは決定権がないんですね。決定権のある人を出してください」と、自分が軽んじられるのではないか、という不安を抱かせてしまうからです。この不安が、「私が責任をもって進めますので」という、お決まりの「はぐらかし」を生むのです。
では、どうすればいいか。「別の、楽で安全な選択肢」を用意します。
ステップ1:まず、相手が答えに困る質問を投げる。
「お客様、現在Aプラン(300万円)と、それに加えて〇〇ができるBプラン(350万円)の2つをご用意しております。もし進めるとしたら、どちらのプランが御社にとって、より望ましいとお感じになりますか?」
もし担当者に権限がなければ、この質問には即答できません。「うーん、そうですねえ…」と、思考がフリーズします。これが、私たちが意図的に作り出した「小さな不便な状況」です。
ステップ2:すかさず「楽で安全な逃げ道」を用意する。
お客様が困っているのを見て、すかさず、優しい声でこう語りかけます。
「(微笑みながら)申し訳ありません、答えづらい質問でしたよね。すぐに選ぶのは、なかなか困難かと存じます。ちなみに、この件は、どなたか他の方とご相談されたりするのでしょうか?」
この一言が、魔法の言葉です。 お客様は、「そうなんです! すぐに答えられなくて…。実は、この件は〇〇部長が参加する、来週の定例会議にかける必要がありまして…」と、堰を切ったように話し出すことができます。
なぜなら、「すぐに答えられなかった」という気まずい状況に対して、「他の人と相談する必要があるから」という、非常に正当で、安全な言い訳(逃げ道)を、あなたが提供してくれたからです。
こうなれば、しめたもの。「その会議には、どのような方がご参加されるのですか?」と自然な流れで聞き、組織の意思決定プロセスを丸裸にしていくことができるのです。
具体例②:「予算」という地雷を安全に処理する方法
予算のヒアリングも全く同じ構造です。 「ご予算は?」というオープンすぎる質問は、お客様に「どう答えるのが一番得か?」という思考の負荷をかけ、「とりあえず、ベストな提案をください」という「はぐらかし」を誘発します。
そこで、私たちは「答えた方が、お客様にとって得ですよ」と思えるような、別の選択肢を用意します。
選択肢A:リスク提示型の質問
「お客様、私どもとしましても、的外れなご提案で貴重なお時間をいただくのは大変申し訳なく存じます。つきましては、『さすがにこの金額を超えたら、そもそも検討の対象外になる』という上限のラインだけ、お教えいただくことは可能でしょうか?」
この質問は、「もし答えてくれないなら、あなたの意に沿わない、的外れな提案が届くリスクがありますよ。それを避けるためには、上限ラインを教えてくれた方が安全ですよ」というメッセージを、暗に伝えています。お客様は、自分の身を守るために、その「安全な選択肢」を選ぶ可能性が高まります。
選択肢B:懸念払拭型の質問
お客様の中には、「上限を伝えると、その上限ギリギリの見積もりが出てくるんじゃないか…」と懸念する方もいます。その気配を察したら、先回りしてこう聞きます。
「承知いたしました。では、『これを超えたらNGという上限ライン』と、もし可能でしたら『このくらいに収まったら嬉しいな、という理想の安心ライン』の2つをお聞かせいただけますでしょうか?」
こうすることで、お客様は安心して本音の数字を伝えることができます。
このように、お客様の心の動きを先読みし、「はぐらかす」という選択肢よりも魅力的な「別の、楽で安全な選択肢」を提示できるかどうか。それこそが、凡百の営業と、契約を次々とものにするトップ営業とを分ける、決定的な違いなのです。
まずは「難しい質問でしたよね」と微笑む勇気を
はぐらかすお客様の心理と、その対処法。少しはご理解いただけたでしょうか。
とはいえ、いきなり全てのテクニックを使いこなすのは難しいかもしれません。でしたら、まずは次回の商談で、たった一つだけ、意識してみてください。
それは、お客様があなたの質問に答えに詰まったり、はぐらかしたりした瞬間に、焦って引き下がったり、畳みかけたりするのではなく、一旦、にっこりと微笑んで、こう言ってあげることです。
「申し訳ありません。少し、答えづらいご質問でしたよね」
この、たった一言。 相手の状況を肯定し、気まずい空気をリセットするこの一言が、お客様の心に張られた「防御のバリア」を解き、信頼関係を築くための、何よりも確実な第一歩となります。テクニックの前に、まず相手への配慮ありき、なのです。
顧客心理を制する者が、営業を制する
顧客心理に基づいたコミュニケーションの設計は、もはや個人の営業センスに頼るものではありません。組織として学び、実践することで、会社全体の受注率を劇的に向上させることができる、再現性の高い「科学」です。
もし、
- お客様の“のらりくらり”とした態度に振り回されず、商談の主導権を握りたい…
- 営業担当者が、自信を持ってお客様の懐に飛び込める「武器」を持たせてあげたい…
- 感覚論ではない、心理学に基づいた科学的な営業戦略で、安定した売上を築きたい…
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最後までお読みいただき、ありがとうございました。