「認識のズレ」を大幅に減らす 提案後のちゃぶ台返しを防ぐ“思考を深める”質問術

「ここまでの内容で、認識は合っておりますでしょうか?」

ヒアリングの最後に、お客様にこう問いかけ、力強く頷いてもらえた瞬間。あなたは、大きな仕事の山を一つ越えたような、そんな安堵感に包まれていませんか?

しかし、もし、その安堵感こそが、数週間後にあなたを絶望の淵に突き落とす「ちゃぶ台返し」の序曲に過ぎないとしたら…?

この記事は、「念入りに確認したはずなのに、後から『話が違う』と言われてしまう」「お客様の言うことがコロコロ変わって、提案の作り直しに疲弊している」…そんな出口のないトンネルをさまよう、すべての営業担当者、そして彼らを率いる経営者・マネジャーのために書きました。

この記事を読めば、あなたが必死に行っているその「認識合わせ」がいかに危険な幻想であるか、そして、お客様との間に決して崩れない強固な「合意の橋」を架けるための、本質的なコミュニケーション術が手に入ります。

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目次

なぜ、お客様の「YES」は信じてはいけないのか

あなたは、完璧な提案書を手に、意気揚々とお客様のもとへ向かっています。一週間前、担当者のAさんとの打ち合わせで、課題の方向性について「はい、その認識で合っています」という、明確な“言質(げんち)”を取れている。あとは、この素晴らしい提案で契約を掴むだけだ…。

しかし、会議室に入るなり、Aさんは申し訳なさそうな顔でこう切り出します。

「あー、〇〇さん、本当にごめんなさい。先週の後、部長から『そもそも、その方向性で本当にいいのか?』って横やりが入っちゃって…。ちょっと、状況が変わったんですよね」

あなたの頭は、一瞬で真っ白になります。 (え…?あんなに、あんなに何度も『合ってますよね?』って確認したじゃないか…!) 費やした時間、労力、そして期待。そのすべてが、音を立てて崩れ去る瞬間です。

なぜ、こんな悲劇が起きてしまうのでしょうか。 答えは、私たちが一つの残酷な真実から、目をそらしているからです。

それは、お客様の「認識」や「組織の状況」は、生き物のように常に変化し、揺らぐ「動的なものであるという事実です。

一週間前に担当者が「YES」と言ったとしても、その翌日に上司から一言あれば、その考えは180度変わってしまうかもしれない。あなたが商談で話している担当者は、組織という巨大な生き物の、ほんの一つの細胞に過ぎないのです。

その場限りの「YES」という言葉尻を捉え、それを100%信用して提案を作る行為は、いわば、昨日の天気予報を信じて、傘も持たずに台風の中に飛び込むようなもの。あまりにも無防備で、危険な賭けだと言わざるを得ません。

“言質取り”から“思考のパートナー”へ

では、この変化し続けるお客様の認識と、どうすればズレを起こさずに、精度の高い提案をすることができるのでしょうか。

その答えは、もはや「認識が合っているか」を確認するのをやめることです。 そして、代わりに「お客様自身に、深く考えてもらう」ための、全く新しいアプローチに切り替えるのです。

多くの営業は、お客様を問い詰める“探偵”のように、「こうですよね?」「間違いありませんね?」と、はい/いいえで答えられる質問で言質を取ろうとします。

しかし、本当に受注を掴む営業は、患者の体を丁寧に診察する“医者”のように、「別の角度から」質問を重ね、お客様自身も気づいていなかった課題の全体像をあぶり出していくのです。

このアプローチの目的は、大きく分けて二つあります。

一つは、営業自身が、お客様の課題を「立体的」に捉えるため。 そして、もう一つが、お客様自身の「思考を深める」手助けをするためです。そして、後者こそが、決定的に重要なのです。

忙しいビジネスパーソンは、自社の課題をきちんと整理できていることの方が稀です。そんな思考が整理されていない状態で、いくら素晴らしい提案をしても、お客様はそれを正しく評価することができません。

あなたの役割は、単なる“提案屋”ではありません。お客様が課題解決のためにいずれ考えなければいけないことを、あなたのいる時間を使って一緒に考える“思考のパートナー”になることなのです。

お客様の思考を深める、明日から使える2つの質問テクニック

「思考を深める質問」と言っても、難しく考える必要はありません。ここでは、誰でも明日から実践できる、具体的なテクニックを2つご紹介します。

テクニック①:曖昧な言葉を「2択」で具体化する

お客様が「ウチは業務が非効率で、アナログなのが課題なんです」といった、曖昧な言葉を発したとします。

ここで、「なるほど、非効率でアナログな業務の改善提案ですね!」と飛びついてはいけません。それが、認識のズレの第一歩です。

代わりに、こう尋ねてみてください。

「ありがとうございます。その『非効率』というのは、例えばAとB、どちらのイメージに近いでしょうか?」

  • A:単純に、紙の書類が多くて、入力作業などに時間がかかる
  • B:関係者が多くて、承認や意思決定のプロセスに時間がかかる

この二つは、同じ「非効率」でも、原因も解決策も全く異なります。お客様に「うーん、どちらかと言えばBかな…」と考え、選んでもらう。このワンクッションを置くだけで、課題の解像度がぐっと上がり、提案の的が絞られるのです。

テクニック②:「5W2H」で課題を立体的にする

もう一つの強力なテクニックが、「5W2H」の視点で質問を投げかけ、課題の背景を浮き彫りにすることです。

先ほどの「業務が非効率なんです」という一言に対して、以下のような質問を重ねていくイメージです。

  • (When:いつから?) 「ちなみに、その問題を課題として認識され始めたのは、いつ頃からなんでしょうか?」
  • (Who:誰が?) 「社内で、その非効率さについて一番よくおっしゃっているのは、どなたになりますか?」
  • (Where:どこで?) 「特に、どの部署や、どの業務プロセスで、その問題が顕著に現れていますか?」
  • (Why:なぜ?) 「これまでも改善の動きはあったかと思いますが、なぜ根本的な解決には至らなかったのでしょうか?」
  • (What:何を?) 「もし完全に効率化されたら、何がどう変わるのが理想の状態ですか?」
  • (How:どのように?) 「現状は、その非効率な業務を、皆さんどのように工夫して乗り越えていらっしゃるのですか?」
  • (How much:どのくらい?) 「理想の業務時間を100とすると、現状はどのくらい余計に時間がかかっているイメージですか? 150くらいですか? それとも200くらいでしょうか?」

これらの質問に答えるために、お客様は少し考え込まなければなりません。しかし、その「考える時間」こそが、お客様自身の頭の中を整理し、課題の本質に気づくための、極めて重要なプロセスなのです。

そして、お客様はこう感じ始めます。 「この営業担当者と話していると、自分たちが何をすべきかが、クリアになっていくな…」と。

この瞬間、あなたは単なる業者ではなく、お金を払ってでも相談したい、唯一無二の“パートナー”へと昇格するのです。

まずは「合ってますか?」を封印することから

ここまで読んで、ご自身のヒアリングスタイルを大きく変える必要があると感じたかもしれません。 でしたら、まずは、たった一つの小さなルールから始めてみませんか。

それは、次の商談で、「認識は合っておりますでしょうか?」という、あなたにとっての“安心材料”となる言葉を、一度、完全に封印してみることです。

そして、その代わりに、こう切り出してみてください。

「ありがとうございます。その点について、もう少し深く理解したいので、少し別の角度から質問してもよろしいでしょうか?」

この一言が、あなたをお客様から言質を取るだけの“探偵”から、一緒になって課題の真因を探る“医者”へと変身させる、魔法の言葉になります。

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“提案”の価値は、“質問”の質で決まる

お客様との間に、なぜ認識のズレが生まれるのか。 それは、お客様の言葉の「表層」だけをなぞって、合意した気になっているからです。

本当に強固な合意とは、言葉の裏側にある背景、文脈、そしてお客様自身も言語化できていなかった想いまでを深く掘り下げ、共有できた時にのみ、生まれます。そして、その深みに到達するための唯一の道具が、質の高い「質問」なのです。

もし、

  • お客様との認識のズレに、これ以上、時間と心をすり減らしたくない…
  • 単なる“御用聞き”から脱却し、お客様から本当に信頼される存在になりたい…
  • チーム全体のヒアリングスキルを根本から底上げし、提案の精度を劇的に向上させたい…

と、本気でお考えの経営者、マネージャーの方がいらっしゃいましたら、ぜひ一度ご相談ください。

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あなたのその「質問」一つで、お客様の思考が深まり、信頼が生まれ、そして未来の受注が決まります。そのパワフルな技術を、あなたの、そして貴社のものにするお手伝いができることを、心から楽しみにしています。

最後までお読みいただき、ありがとうございました。

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トレテク代表 久保埜 実(くぼの みのる)
セールスパーソン戦力化コンサルタント
【著者プロフィール】

医療系企業の営業職として従事しながら、“セールスパーソン戦力化コンサルタント”として、東京都八王子市と日野市を中心に事業を展開。
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