ロジックが完璧な提案書の落とし穴 先方の社内稟議を通す「社内プロトコル」の見抜き方

ROI(投資対効果)も完璧。他社の成功事例も豊富に盛り込んだ。ロジックは非の打ち所がないはずだ…」

「なのに、なぜ。『社内で検討しましたが、今回は見送ります』の一言で、この提案はゴミ箱行きなんだ…?」

「一体、あの会社の役員たちは、何を見て、何を基準に物事を決めているんだ…?」

寝る間も惜しんで作り上げた渾身の提案書が、まるで中身を読まれた形跡もなく、アッサリと却下されてしまう。そんな理不尽な経験に、奥歯をギリリと噛み締めたことはありませんか?

これは、多くの真面目な営業担当者が陥る、深く、そして暗い沼です。そして、その報告を受ける経営者やマネジャーの方々にとっても、会社の売上を揺るがす深刻な問題ではないでしょうか。

この記事は、そんな「正論だけでは通らない」という営業の壁にぶつかり、心を消耗しているあなたのために書きました。

この記事を読めば、あなたがこれまで信じてきた「ロジカルな説得術」が、実は顧客の組織内では全く通用しないケースがある、という衝撃の事実が分かります。

そして、顧客の社内で「絶対にYESと言われる」ための、本当の説得力――すなわち、彼らの組織に深く根付いた“見えざる掟”を見抜き、ハックするための具体的な方法が手に入ります。

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目次

「上司を説得できませんでした」― 営業の心が折れる、その瞬間

深夜のオフィス。あなたは、モニターに映し出された提案書の最終ページを、満足げに眺めていました。競合A社、B社の導入事例を徹底的に分析し、導入後のROI(投資対効果)についても、誰もが納得するであろう精緻なシミュレーションを提示。まさに、論理武装された完璧な提案書です。

翌日のプレゼンテーション。お客様の担当者は、あなたの説明に何度も深く頷き、「素晴らしい内容ですね。これなら上も納得してくれると思います」と、固い握手を交わしてくれました。あなたは勝利を確信し、受注後のスケジュールに思いを巡らせます。

しかし、一週間後。鳴り響いた電話の向こうから聞こえてきたのは、予想だにしなかった言葉でした。

「大変申し訳ありません…。先日いただいたご提案、役員会にかけたのですが、承認が下りませんでした。上司を説得しきれず、力不足で申し訳ないです…」

「え…?」

一瞬、言葉を失います。理由を尋ねても、「いや、内容が悪いということでは決してないのですが…」「総合的な判断としか…」と、歯切れの悪い言葉が返ってくるだけ。あれだけ完璧だと思ったロジックは、一体どこで、誰に、なぜ否定されたのか。全く分からない。

この、理由なき敗北。これこそ、営業という仕事において、最も無力感に苛まれる瞬間です。

そして多くの営業は、この敗因を「自分のロジックが足りなかったからだ」「もっとデータを盛り込むべきだった」と勘違いし、さらに分厚く、さらに複雑な提案書を作るという、出口のない迷路に迷い込んでしまうのです。

結論:あなたの「正論」を殺す、見えざる“社内プロトコル”の正体

なぜ、あなたの完璧なロジックは、お客様の組織の壁を突破できないのでしょうか。

その答えは、「お客様の社内には、一般的な正論やデータよりもはるかに優先される、独自の“コミュニケーション・プロトコル”が存在するから」です。

プロトコルとは、ここでは「作法」や「慣習」「暗黙のルール」だと思ってください。学校のクラスにだけ通じる独特のノリや、家族の中だけで許される冗談があるように、一つ一つの会社にも、意思決定における独自の文化や力学、つまり「物事の通し方」があるのです。

あなたがどんなに美しいロジカルシンキング(論理的思考)を駆使しても、この社内プロトコルに沿っていなければ、その提案は「異物」として扱われ、決して受け入れられることはありません。では、そのプロトコルには、一体どんな種類があるのでしょうか。

あなたの提案を判定する、3タイプのプロトコル

会社によって様々ですが、代表的なプロトコルは、大きく分けて3つのタイプに分類できます。

【鶴の一声】属人承認タイプ

これは、特定のキーパーソン――例えば、社長や担当役員――が「良い」と言えば、全てが決まるというプロトコルです。「役員の〇〇さんがGOと言ったらGOなんだ」という、非常にシンプルなルール。

このタイプの組織で、現場担当者向けの細かい費用対効果をいくら説明しても意味がありません。攻略すべきは、ただ一人。そのキーパーソンの価値観や関心事に、いかに響く提案ができるか、それだけが問われます。

【赤信号、みんなで渡れば】横並び意識タイプ

「競合の△△社がやっているなら、ウチも検討すべきだ」「業界最大手の□□社が導入したらしい」といった、他社の動向を非常に気にするプロトコルです。彼らにとっての安心材料は、革新的なデータではなく、「他社もやっている」という事実。

このタイプの組織には、いかに多くの、そして権威のある同業他社が、あなたのサービスを導入しているかを示すことが、どんな精緻なROIよりも強い説得力を持ちます。

【昔、この道は来た道じゃ】前例踏襲タイプ

「過去に通った稟議のロジックと似ているか」「以前、成功したプロジェクトと進め方が同じか」といった、過去の成功体験を絶対的な基準とするプロトコルです。彼らは、新しいやり方には強い警戒心を示します。

このタイプの組織を攻略するには、あなたの提案が、彼らにとって未知の冒険ではなく、「あの成功事例の再来」であるかのように見せかける“物語”が必要になります。

いかがでしょうか。あなたがこれまでぶつかってきた「見えない壁」の正体が、少し見えてきたのではないでしょうか。あなたの提案がどんなに正しくても、このプロトコルという名の“お作法”に則っていなければ、門前払いされてしまうのです。

手遅れな質問:「どうすれば、社内で決まりますか?」

「なるほど、社内プロトコルが重要なのは分かった。じゃあ、それを直接お客様に聞けばいいんだな?」――そう考えたあなたは、残念ながら、また同じ失敗を繰り返すことになります。

多くの営業が、提案書を提出する直前や、提出した後のタイミングで、こう質問してしまいます。

「このご提案、どういった形で進めれば、社内でご決定いただけますでしょうか?」

もちろん、聞かないよりはマシです。しかし、断言します。このタイミングで聞くのでは、もう手遅れです。

それはなぜか。料理に例えるなら、あなたは既に、肉も野菜もスパイスも全て鍋に入れて煮込んでしまった後で、「ところで、今夜はカレーとシチュー、どちらが良かったですか?」と聞いているようなものだからです。もう、味付けは変えられないのです。

提案の骨格となるロジックは、この「社内プロトコル」という最も重要な情報に基づいて組み立てられなければなりません。それなのに、最後の最後でその情報を得ようとしても、もはや提案内容を根本から修正することは不可能なのです。

では、一体どうすれば、この最も重要な情報を、最適なタイミングで手に入れることができるのでしょうか。

“過去の経営会議”に潜入するための、キーとなる質問

社内プロトコルという、企業の内部情報。それを、まだ信頼関係も浅い初期段階で、ストレートに聞き出すのは困難です。下手をすれば、「こちらの内情を探ろうとしているのか?」と、警戒されてしまうかもしれません。

そこで、私がお勧めするのが、次の質問です。

これを、できるだけ早い段階、理想を言えば最初のニーズヒアリングの時に、さりげなく会話に盛り込むのです。

「ちなみに、今回ご相談いただいたこの課題に対して、皆様の会社では、過去にどのような取り組みをされてきたのでしょうか? そして、その際には、社内でどのような議論があったのですか?」

一見、過去の事実を確認しているだけの、何気ない質問に見えます。しかし、この質問こそが、お客様の社内プロトコルを解き明かす、魔法の鍵なのです。

なぜなら、「過去の取り組みの経緯」と「その時の社内議論」の中には、その会社で「承認されるロジック」と「却下されるロジック」の歴史が、全て詰まっているからです。

  • 「以前、Aという施策を試したんですが、〇〇役員から『費用対効果が見えない』と一蹴されまして…」→ この会社は、データ、特に費用対効果を重視するプロトコルかもしれない。そして、〇〇役員がキーパーソンだ。
  • 「B社が導入したツールを真似てみたんですが、結局、ウチの業務フローに合わなくて…ただ、B社がやっているという点では、話はスムーズに通ったんですよね」→ この会社は、横並び意識が強いプロトコルだ。ただし、導入後の定着には課題を感じている。

このように、お客様が語る“過去の物語”に耳を傾けることで、あなたはまるでタイムマシンに乗って、過去の経営会議や稟議の現場に潜入したかのように、彼らの「意思決定のクセ」を手に取るように理解できるのです。

さらに、この質問にはもう一つ、重要な副産物があります。もし、目の前の担当者がこの質問に全く答えられない――「さあ、よく分かりませんね…」といった反応であれば、その担当者は、残念ながら意思決定のプロセスに深く関与していない可能性が高い、と判断できます。

その場合、あなたは、もっと上位のキーパーソンを巻き込むための、次の一手を考える必要がある、ということにも気づけるのです。

今日からできる、たった一つのアクション

提案の説得力とは、美しいパワポ資料や、雄弁なトークスキルの中に宿るものではありません。それは、お客様の組織という“生き物”の呼吸や脈拍を、いかに深く理解しているか、という洞察力の中に宿ります。

もし、あなたが明日から、稟議で落ちない、本当に「通る」提案を作りたいと願うなら。

次回のヒアリングで、たった一つだけ、質問を追加してみてください。

「この件について、これまで社内では、どのような議論がなされてきたのでしょうか?」

この静かな問いかけが、あなたの営業活動に、そして会社の売上に、革命的な変化をもたらす最初の一歩となることを、お約束します。

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最後までお読みいただき、ありがとうございました。

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トレテク代表 久保埜 実(くぼの みのる)
セールスパーソン戦力化コンサルタント
【著者プロフィール】

医療系企業の営業職として従事しながら、“セールスパーソン戦力化コンサルタント”として、東京都八王子市と日野市を中心に事業を展開。
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