案件がトップダウンかボトムアップかの“発生源”で攻め方を変え、受注を掴む営業戦略

「社長から『ぜひ検討しろ』と鶴の一声が出た、トップダウン案件のはずなのに、なぜか最後の最後で契約に至らない…」
「現場の担当者は『これ最高です!』とあんなに盛り上がっていたのに、役員会議にかけたら、あっさり『今回は見送り』とひっくり返された…」
営業活動をしていると、こんな「煮え切らない失注」に頭を抱えることはありませんか? 手応えはあったはずなのに、なぜか受注できない。その原因は、あなたの会社の営業努力が足りないからでも、製品が悪いからでもないかもしれません。
実は、案件の「発生源」がどこにあるか、つまり「トップダウン型」か「ボトムアップ型」かによって、抑えるべきキーパーソンと、響かせるべきアピールポイントは、全く異なるのです。
この記事は、そんな「見えない壁」にぶつかり、売上の伸び悩みに苦しむ中小企業の経営者や営業マネジャーの皆さまのために書きました。
この記事を読めば、「案件の発生源」別に、営業が本当にアプローチすべき相手と、提案すべき「判断基準」が明確になります。そして、明日からの営業戦略をガラリと変え、契約率を劇的に高めるための具体的なヒントが得られるはずです。
なぜかハマらない…営業現場でよくある「2つの勘違い」
「トップダウン」と「ボトムアップ」。この2つの言葉は知っていても、その「戦い方」を明確に分けている営業チームは、驚くほど少ないのが現実です。まずは、多くの営業担当者が陥りがちな、よくある失敗例を見てみましょう。
失敗例1:「社長の肝いり案件」という言葉の魔力
ある日、営業担当者が目を輝かせて報告に来ます。 「マネジャー!やりました!今回の案件、A社の社長の“肝いり”だそうです!『社長の特命で始まった』と担当者さんが言っていました!」
これを聞いた営業マネジャーは、こう指示を出します。 「よし! それは“トップダウン案件”だ。何が何でも社長のアポを取れ。社長の考えていること、社長の課題にフォーカスして提案資料を作り込め! 他の担当者の声は二の次でいい。社長を落とせば決まる!」
営業担当者はその指示に従い、社長との面談に全力を注ぎます。社長のビジョンに共感し、素晴らしいプレゼンをしました。社長も「うん、いいね。前向きに進めてよ」と上機嫌です。
「これは決まった!」と確信した数週間後。担当者から届いたのは、無情な「お見送り」のメールでした。理由を探ってみると、裏ではこんな会話が交わされていたのです。
「社長はああ言ってたけどさ、現場からすると、あの機能じゃ全然足りないよ」 「ていうか、サポート体制の説明、ほとんどなかったよね? ウチ、そこが一番不安なのに」 「結局、社長は“きっかけ”を作っただけで、選定は俺たちに丸投げだったってことか…」
「社長案件」という言葉の魔力に囚われ、たった一人のキーパーソン(社長)だけを追いかけた結果、本当に影響力を持つ「別の人物たち」の懸念を、完全に見落としていたのです。
失敗例2:「現場の大絶賛」という甘い罠
今度は逆のパターンです。 営業担当者が、あるシステムのデモンストレーションを行いました。現場の担当者たちは「うわ、これすごい!」「今の業務が半分以下になる!」「ぜひ導入したいです!」と大絶賛。まさに「ボトムアップ型」の理想的な滑り出しです。
営業担当者は、「現場の熱意は十分伝わった。あとは、この“熱”を決裁者(けっさいしゃ)にぶつけるだけだ!」と考え、現場担当者から紹介された役員(最終決済者)のもとへ向かいます。
しかし、役員の反応は冷ややかでした。 「現場が盛り上がってるのは分かった。で、結局、これを導入していくらかかって、ウチの会社はいくら儲かるの? その費用対効果を、ちゃんと数字で説明してくれる?」
現場の「使いやすさ」「機能のすごさ」ばかりをアピールする準備しかしていなかった営業担当者は、その一言で凍りつきます。具体的な投資対効果(とうしたいこうか)の数字を即答できず、あえなく撃沈。
「現場の“使い勝手”」と「経営者の“費用対効果”」。どちらも重要ですが、ボトムアップ案件では、どのタイミングで、誰に、何を訴求するか、その順番とロジックを間違えると、現場の熱意が経営陣に伝わる前に、あっけなく火を消されてしまうのです。
案件別「本当のキーパーソン」とは?
なぜ、このようなすれ違いが起こるのでしょうか? それは、私たちが「最終決済者」の影響力を過大評価しすぎているからです。購買の主導権(イニシアチブ)は、本当は誰が持っていたのでしょうか。
1. トップダウン案件:「社長の影響力」は意外に少ない
まず、「社長の特命」などで始まるトップダウン案件。「最終決済者(社長や経営陣)が実質的な影響力を持っている」状況は意外に少なく、きっかけは社長でも、最終的な決定には社長以外の誰かが強く関与しているのです。
主に誰が影響しているかというと、実は「社内推進者(そのプロジェクトを進める中心人物)」でした。
「社長案件だから社長を抑えろ」という営業戦略は、非効率な戦い方だったのです。
2. ボトムアップ案件:「最終決済者」より影響力を持つ人が3人もいる
次に、「現場の問題提起」から始まるボトムアップ案件。こちらは、さらに衝撃的です。誰かというと、
- 最終決済者
- 決済者への影響者(アドバイスする人)
- 現場の利用者
- 社内推進者
なんと、最終決済者よりも影響力が高い人物が、現場の利用者の他に3種類も存在するのです。
明日から営業を変える! 案件別「4つの必勝戦略」
これらを踏まえ、経営者や営業マネジャーであるあなたが、今すぐ営業チームに指示すべき「具体的な戦略」を4つにまとめました。
【戦略1】トップダウン案件:「決めつけ」を捨て、分散する判断軸を追え
結論:「社長案件」と聞いても、絶対に社長だけで決まると決めつけてはいけません。
理由: 最終決済者の影響力は25.1%に過ぎず、残りの75%は社内推進者や現場担当者など、複数の人物に影響力が分散しているからです。
一歩目: 営業担当者に「社長の指示で動いている“現場のキーパーソン”は誰か、必ず特定しろ」と指示しましょう。
トップダウン案件の営業が難しいのは、「社長のGO」という“お墨付き”があるように見えて、実は「誰が本当に評価しているのか」が見えにくい点にあります。
きっかけは社長でも、社長は「あとはよろしく」と現場に丸投げしているケースがほとんど。その指示を受けた担当者たちは、「とはいえ、上が言ってるから検討するか…」と、少し“やらされ感”を持ってスタートすることもあります。
あなたの会社の営業がすべきことは、その「指示を受けて実際に検討する人たち」を徹底的に味方につけることです。
さらに、この案件は「判断基準」もクセがあります。
経営者であるあなたは、営業チームに「トップダウン案件こそ、決め打ちで提案するな。価格、性能、サポートなど、複数の武器を用意し、どの球が響くか探るプロセスを踏め」と指導しなくてはなりません。
他社が「社長、社長」と騒いでいる間に、冷静に“本当の影響者”たちを抑え、彼らの多様な懸念を一つずつ潰していく。それがトップダウン案件の正しい戦い方です。
【戦略2】ボトムアップ案件:最強の味方「社内推進者」を特定せよ
結論: ボトムアップ案件は、最終決済者を口説く前に、まず「社内推進者」を全力で味方につけるべきです。
理由: データが示す通り、ボトムアップ案件で最も影響力を持つのは「社内推進者」(22.6%)であり、最終決済者(16.2%)を大きく上回るからです。
一歩目: 現場担当者と話す中で、「この導入を一番強く進めたい方、上司を説得してくれそうな方はどなたですか?」と聞き、そのキーパーソンを探し出しましょう。
現場の担当者は「これが欲しい!」と熱意を持っています。しかし、彼らには「組織を動かす力」や「決裁者を説得するロジック」がありません。
そこで登場するのが「社内推進者」です。これは、例えば現場上がりの課長や、部門を横断するDX推進室のリーダーなど、「現場の気持ちも分かり、かつ経営層にも意見が言える」中間的な立場の人物であることが多いです。
彼らは、現場の「欲しい!」という熱意を、「会社にとって必要だ」というロジック(論理)に翻訳し、上に上げてくれる最強の味方。
あなたの会社の営業担当者がすべきことは、現場の担当者と盛り上がって満足することではありません。その熱意を利用して「推進者」にアポイントを取り、「(推進者である)あなたが上司を説得するための資料を、私たちが一緒に作ります!」と申し出ることです。
彼らが決裁者に説明しやすいような「費用対効果のシミュレーション」や「他社導入事例」を、惜しみなく提供してください。
ボトムアップ案件の受注とは、営業が決済者を説得することではなく、「社内推進者」が決済者を説得するのを、どれだけ完璧にサポートできるかで決まるのです。
【戦略3】ボトムアップ案件:「初期のスペック訴求」で現場の心を掴め
結論: ボトムアップ案件の初期段階では、課題のヒアリングと同時に、「製品の機能(スペック)」を具体的に訴求することが極めて有効です。
理由:現場は「自分たちの仕事が本当に楽になるか」という“フィット感”を何より重視しています。調査でも、ボトムアップ案件は検討初期に「製品の品質・精度が自社に合っているか」のスコアが突出して高くなります。
一歩目: 抽象的なメリットを語るより、「この機能で、あなたのその面倒な作業が、こう変わります」と、具体的なデモを見せて「自分ごと」にさせましょう。
「いきなり製品の話をするのは、押し売り営業だ」と教わってきたかもしれません。しかし、ボトムアップ案件においては、それが当てはまらない場合があります。
なぜなら、現場の担当者にとって、新しいシステムの導入は「自分の仕事が楽になるか、逆に面倒になるか」の死活問題だからです。彼らはまず、「使えるモノなのか?」を自分の目で確かめたいのです。
ここで、営業が製品のスペックや機能について自信なさげだったり、説明を濁したりすると、現場の熱は一気に冷めます。「この営業、分かってないな」と思われたら終わりです。
逆に、検討の初期段階で、彼らの課題にピッタリ合う機能をデモで見せ、「これならイケる!」と興奮させることができれば、彼らは勝手に「社内推進者」や上司への“説得役”になってくれます。
また、ボトムアップ案件は「カスタマイズ要望」や「他社との違い」にも注目が集まりがちです。これも、現場のフィット感を追求するがゆえ。
営業担当者には「現場の細かい要望や他社比較から逃げるな。そこで徹底的に向き合うことが、現場の信頼を勝ち取る第一歩だ」と伝えましょう。
【戦略4】「費用対効果」を語る“タイミング”を見極めろ
結論:「費用対効果」をアピールすべきタイミングは、トップダウンとボトムアップで真逆です。
理由: トップダウン案件は検討後期に「費用対効果」の重要度が下がり(判断軸が分散する)、ボトムアップ案件は検討後期まで「費用対効果」の重要度が高いまま(決済者への説得材料として必要)だからです。
一歩目: ボトムアップ案件では、最後まで「費用対効果のロジック」を磨き続けるよう指示しましょう。
先ほど、トップダウン案件では「費用対効果」の重要度が後期にかけて下がっていくと述べました。
一方で、ボトムアップ案件の「費用対効果」は、検討が進むにつれてむしろ重要度が増し、最後まで高い水準を維持します。
これは、先ほどの「社内推進者」の動きと連動しています。 現場が「この製品、機能的に最高だ!」と盛り上がる(検討初期)。
↓ 推進者が「よし、これを上に通そう」と動き出す(検討中期)。
↓ 推進者が決裁者に「これを導入すべきです」と提案する(検討後期)。
↓ 決裁者が「で、いくら儲かるの?」と聞く。
この「検討後期」の決裁者の質問に答えるため、推進者は「費用対効果」という“武器”を必要とします。
あなたの会社の営業が、検討の後期段階で、この「費用対効果のロジック」を完璧に用意できていなければ、せっかく盛り上がった案件も、最後の最後で「費用対効果が不明瞭」という理由で失注してしまいます。
「現場の熱」と「経営のソロバン」。ボトムアップ案件は、この両方を満たして初めて契約となるのです。
まずは「今すぐ」案件リストをチェックしよう
トップダウン案件とボトムアップ案件、その戦い方の違いをご理解いただけたでしょうか? 大切なのは、この知識を「知っている」ことではなく、現場で「使う」ことです。
経営者や営業マネジャーであるあなたが、今日からできる「一歩目」は、非常にシンプルです。
今すぐ、あなたの会社の「案件リスト」を開いてください。
そして、今追いかけている主要な案件を一つひとつ見ながら、営業担当者と共に、「これはトップダウンか、ボトムアップか?」を明確に分類してみてください。
もしトップダウン案件なら、「社長以外の“本当の影響者”は特定できているか?」を。 もしボトムアップ案件なら、「最強の味方である“社内推進者”は誰か、掴めているか?」を。
たったこれだけの「見極め」をチームで実践するだけで、営業の「攻め手」は劇的に変わり、今まで見えていなかった受注への道筋が、はっきりと見えてくるはずです。
「決めつけ」を捨て、本質的な営業力を手に入れませんか?
あなたの会社の営業チームは、お客様のタイプや案件の性質に合わせて、柔軟に戦い方を変えられていますか?
「社長案件だから社長へ」 「現場が盛り上がればOK」 そんな「決めつけ」や「思い込み」の営業から脱却し、データと心理に基づいた、本質的なコミュニケーション能力を身につけたくはありませんか?
もし、
- どんなタイプの案件でも対応できる、強い営業チームを育てたい…
- 「あと一歩」での失注を減らし、安定的に売上を伸ばしたい…
- 勘や根性論ではない、論理的な営業戦略を会社に導入したい…
と、本気でお考えの経営者・営業マネジャーの方がいらっしゃいましたら、ぜひ一度ご相談ください。
トレテクでは、単なるセールストークの研修ではなく、こうした購買プロセスの深い理解に基づいた、本質的な営業戦略の構築と実行をサポートします。そして、それが最終的に、貴社の安定的な売上成長に繋がることをお約束します。
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